「開会の前に10分ほどお時間をいただき、代表取締役社長として株主の皆様に少しお話させていただきたいと思います」──。6月23日、現経営陣VS創業家の“お家騒動”に揺れる外食チェーン、大戸屋の株主総会はこうして始まった。
窪田健一・大戸屋ホールディングス社長(45)が涙ながらに説明した概要はこうだ。
昨年7月、創業2代目のカリスマ会長、三森久実氏が57歳の若さで病死した後、2013年より社長に就いていた窪田氏は、経営体制の再構築や意思決定のスピードアップ、組織のフラット化を図った。その過程で“火種”となったのが、三森久実氏の長男である智仁氏(27)の処遇だ。
昨年の株主総会において取締役就任が承認され、常務取締役海外事業本部長に任命された智仁氏だったが、今年3月に発せられた「香港子会社社長」の辞令を固辞したうえ、取締役の辞任も申し出たという。
「智仁氏は前会長のご子息とはいえ、弱冠26歳の若者には(常務の肩書きは)重責ではないかと、当時は社内外からご心配の声も頂きました。しかし、将来の当社グループを引っ張って行って欲しいという前会長のご遺志でもあったため、私もこれを受け入れ、昨年の総会においても、『私が責任をもって育てます』と宣言いたしました。
最初から海外事業本部長としての重責を担うよりも、将来、当社のリーダーに育ってもらうため、まずは、経営が安定している香港子会社の社長として、語学の習得や現場経験を積んで欲しいという私の思いもあり、ご本人も一旦はこれを受け入れました」(窪田氏)
報道によれば、昨年11月に智仁氏がヒラの取締役に降格されたことが騒動のきっかけだったとする向きもあったが、窪田氏は「降格は事実ではない。組織のフラット化を目的に、専務、常務などの肩書をすべて廃止した」と否定した。
いずれにせよ、窪田氏をはじめとする現経営陣は、事態を収束させるべく数か月にわたって智仁氏や亡き久実氏の妻(62)など創業家と話し合いの場を持ってきたというが、一度亀裂の入った溝が埋まることはなかった──。これが窪田氏の弁明である。
久実氏の妻と智仁氏は、今年の株主総会で会社側が諮った新しい役員人事案にも反対していた。会社側が久実氏に近かった役員を含めて“創業家外し”を画策しているのではないかとの不信感が募っていたことは容易に想像がつく。
だが、創業家2人合わせた持ち株比率は18.78%と少なく、経営権を握るまでには到底及ばない。結局、株主総会で会社側が推薦した新しい役員5名はすんなり承認された。