さらに、その後、そうした対策を行っても来年4月時点で560人超の待機児童が出る見込みとなったため、緊急対策第2弾として区内の11か所を認可保育所用地に転じることを決めた。これらによって、受け入れる児童の数は2000人以上増やすことができるという。
前述のように安倍政権が「待機児童ゼロ」を目指すのは2017年度末。一方、杉並区が目指すのは2017年4月。杉並区は国に1年先駆けたゼロ達成を掲げたわけだ。杉並区の田中良区長は思い切った施策をとった理由をこう語る。
「来年度だけではなく、再来年度以降を見据えると、当初の対策だけでは560人きっかりの定員を確保するのでは不充分でした。少人数を保育できる施設をたくさん作るのも、コストを考えると非効率的。ですから、100人規模の認可保育所を複数作る、そのための一定の規模の土地を確保するということを進めていこうとしているのです。待機児童をゼロにするためには、今すぐ着手しなければ、取り返しのつかないことになります」
住宅が建ち並び、東京23区で6番目に人口が多い杉並区ではこれまで、認可保育所が増えない時期が続いていた。1999年から2010年までの12年間で、増えた認可保育所はわずか1か所。その分を、保育士の配置基準などが認可保育所ほど厳しくなく、ビルやマンションの一室でも営める認可外保育所が補ってきた。
これは杉並区だけの話ではない。都内では、認証保育所など自治体独自の基準を満たせば運営できる認可外保育施設を後押しし、そういった施設を利用する子供は待機児童として数えず、見かけの待機児童数を減らすということが行われてきた。
つまり、根本的な解決がなされないまま、待機児童の問題は放置されてきたということだ。
「それはしかし、間違った方針でした。少子化が進んでいることもあり、保育所への需要はやがてなくなっていくだろうという誤った認識が、職員のなかにもありました」
田中区長はそう語り、これまで問題解決が先送りされていたことを率直に認めた。一昨年、任期が2期目に入った田中区長にとって、この問題は避けて通れないと語る。
「出産して子育てしながら働きたいと思っている女性の最大のネックは保育です。これは、自治体が優先して解決すべき課題です」
杉並区は昨年度、新たに13か所の認可保育所の設立を目指していたが、実現したのは約半分の7か所だけ。ネックとなったのは土地の確保だ。それを乗り越えるために掲げた方針が、前述のように区有地を使い、業者ではなく区が前面に立って、周辺住民との折衝にも当たるというものだった。
※女性セブン2016年7月7日号