待機児童の数は減っていない…改めて待機児童の数が“高止まり”していることが浮き彫りになった。読売新聞の調査によると、回答した全国の主要自治体68市区での待機児童数は今年4月の時点で8458人で、減るどころか、439人(5.5%)増えていた(6月6日付朝刊)。
朝日新聞でも、回答を寄せた80自治体には1万3991人の待機児童がいると報じられた(6月11日付朝刊)。この数は前年4月に比べて654人(4.5%)減少したものの、やはり数としては多い。東京23区に限れば526人(10.9%)増えて、5358人が保育所の空きを待つ状態になっている。
この待機児童問題を放っておいていい、と表立って主張している政党はなく、いかに解消するか、その具体的な方策こそが、7月に行われる参議院選挙と東京都知事選挙の大きな争点となるはずだ。
安倍政権はこの問題を解決しようと、約50万人分の“保育の受け皿”を確保し、2017年度末には待機児童をゼロにするという方針を掲げた。5月に発表した「1億総活躍プラン」では、保育人材の確保を目指し、2017年度から保育士の給与を月額2%(約6000円)アップさせるのに加え、保育技術の高いベテラン保育士には、最高で月額4万円プラスする方向で調整するとしている。
それに対して野党は、金額が不充分だなどと声を上げている。確かにこうした施策により、保育に携わる人の増加は見込めるかもしれない。しかし現在、待機児童問題はこれとはまったく別の大きな壁に直面している。
それは、保育園建設反対の声。周辺住民から「子供の声がうるさい」などと反対運動が起こり、建設計画が中止に追い込まれる事態が各地で起きているのは本誌でも既に報じた通り。
その結果が冒頭で示した待機児童数の“高止まり”を生んでいる一因といえるが、ここに来て、その対立がいよいよ抜き差しならぬところに及んでいることがわかった。
「2017年度末までに待機児童ゼロを目指す」と安倍政権。そのかけ声の足元では住民の分断が起きている。働く母親たちの願いは届くのか。
自治体も今の状況に手をこまねいているばかりでは決してない。さまざまな方法で保育所の新設を試みている。
たとえば東京・目黒区では、区庁舎の駐車場の一部を保育所として、来春の開所を目指している。臨海部にタワーマンションが建ち並んで人口が増えている東京・中央区では、JR東京駅前に2021年に完成する予定の再開発ビルに、80人規模の保育施設を作るとしている。そういったなか、東京・杉並区が打ち出した新たな策が、区の施設・用地の保育施設への転用だった。
杉並区は3月、自転車集積所や区民会館など4施設を認可保育所などとして利用して、1079人規模の整備を行うと発表。それでも追いつかず、4月に待機児童の数が前年比の3倍増の136人となったことを受けて「すぎなみ保育緊急事態宣言」を発表し、来年4月にはその待機児童ゼロを達成すると宣言した。