「笑わせることを控える勇気、でしょうね。理想は、腹をよじって涙が出るほど笑ってもらうことなんだけど、3時間半の『志村魂』で、ぶっ通しで大爆笑っていうのは無理。だから笑いの構成が重要になってくる。あえてクスクスッとした笑いにとどめておいて、徐々に高め、最後にバーンと笑わせるとかね。
動きメインの笑い、タイミング重視の笑い。喋らずに音で笑わせたり、見た目の笑いにこだわったり。手法を変えながら、大爆笑までの道筋を作っていく。昨日今日お笑いを始めたんじゃないし、長年培った経験があるから、客席の笑いの量が予測できるんです」
舞台『志村魂』の構成は、ほぼ11年間変わらない。「バカ殿」に扮して会場の空気をがっちり掴み、コントを複数畳みかけて会場を温め続ける。休憩を挟んで2幕冒頭は、志村の三味線独奏。そして松竹新喜劇の大スターであった藤山寛美の人情喜劇を披露する。
「お客さんが50人程度で若者ばかりならシュールなコントでもいいんだろうけど、『志村魂』は大きな劇場で1000人以上のお客さんを相手にするから、それでは満足してもらえない。お陰様で、『志村魂』には3世代で来てくれている家族も多い。
子供にも最後まで飽きさせないためには、バカ殿とコントで『この人、何かやってくれるんじゃないか』って期待感をもたせる。そうすると、最後の人情芝居でも、子供が走り回らず、席にじっとしているんです。親と一緒に涙ぐんだりしてくれたりね」
「バカ殿」「変なおじさん」……。毎度、舞台を彩るのは、志村の生み出したキャラクターたちだ。