駅ホーム見える再開発前の松原団地
今回の駅名改称は東武鉄道の都合で駅名を変更するのではなく、あくまでも外部からの働きかけによるもの。その場合、駅名改称を要望した自治体や団体が費用を負担することになる。
「市は松原団地駅名変更協議会にオブザーバー参加していますが、主導はしていません。そのため、駅名改称にかかる費用負担はしないことを協議会とも確認しています」(同)
草加市は、市税を投じてまで松原団地駅を改称しようと躍起になっているわけではないようだ。
草加市のような消極的推進というスタンスを取る自治体もあれば、茨城県龍ケ崎市のように積極的に駅名改称を推進している自治体もある。
龍ケ崎市は、東京圏に通勤するビジネスマンが多く居住するニュータウンとして発展した。市の中心部にあるのは関東鉄道の龍ケ崎駅だが、JR常磐線佐貫駅の方が圧倒的に利用者は多い。佐貫駅には特急列車や特別快速も停車し、龍ケ崎市の玄関駅としての機能も果たしている。そのため、対外的には自治体名を冠した龍ケ崎駅よりも佐貫駅の方が知名度は高い。
そうした事情もあって、以前から龍ケ崎市では多くの人が行き来する佐貫駅を「龍ケ崎市駅」に改称して、”龍ケ崎”の認知度を高めようという動きが潜在していた。
「市を挙げて佐貫駅を龍ケ崎市駅へと改称する動きは、現在の市長が2期目の選挙で公約として掲げたものです。その市長が当選したことで、駅名改称は本格化しました。市が主導して駅名改称を推進していますので、費用は市の負担です。JR東日本の試算では、佐貫駅の駅名改称には約6億3000万円かかるとのことでしたが、消費税が8%から10%に上がるタイミングで駅名を改称すれば、システムの改修が同時におこなえるため、費用負担は約3億3000万円まで抑えられることがわかりました。そのため、市は消費税が上がるタイミングで駅名を改称する準備を進めていたのです」(龍ケ崎市総合企画課)
しかし、周知のように消費税の10%引き上げは見送られた。そのため、龍ケ崎市が望んでいた駅名改称も消費税が10%に引き上げられる2019(平成31)年10月まで先送りされることになった。
先送りといっても、景気や政局次第では2019年に予定通り消費税が10%に引き上げられるかどうかも不明瞭のままだ。そうなると、龍ケ崎市駅は幻に終わってしまう可能性もある。
「確かに、再び消費税の引き上げが先送りされる可能性はあるでしょう。仮に消費税が10%に引き上げられなかった場合でも、運賃改定などのタイミングを見計らって龍ケ崎市駅を実現させるつもりで準備を整えています」(同)
佐貫駅が龍ケ崎市駅になると、関東鉄道の龍ケ崎駅と並立することになる。龍ケ崎駅と龍ケ崎市駅。似たような名前の駅が、離れた場所に存在する。そうなると、ちょっとした混乱が起きる可能性も否定できないが、岐阜県にはJR岐阜駅と名鉄岐阜駅が500メートルほど離れて立地しているし、愛媛県でもJR松山駅と伊予鉄道松山市駅とが1.5キロメートル離れた位置で競合している。
ここまで駅名にこだわるのは、やはり駅が持つ力の大きさゆえだろう。駅は道路標識や全国で市販される地図、グーグルストリートビューにも掲載される。常磐線の乗客が車内アナウンスで”龍ケ崎”の名前を耳にする機会だって増える。それが龍ケ崎のPR効果になる。つまり、駅名改称は、自治体のPR戦略の一環でもある。
もちろん、駅名を変えるだけで観光客が押し寄せるようになったり、人口が急増したり、産業が振興することはあり得ない。それでも、まちの名前を売り込むことは、ブランド戦略の第一歩。龍ケ崎市駅の成否次第で、同じように駅名改称にこだわる自治体が出てくるかもしれない。