誰かが走ると、お前たちの面倒みてやってるのは俺たちなんだということを示したい警察にしょっ引かれる。あのときはそれが俺だっただけのこと。『ザ・テンメイ』は月刊誌で70万部という異常な売れ方をしていたんだ。御上は、秩序を乱す得体の知れない力が怖いんだよ。猥褻というキーワードがないと、体制を維持できないんだろう。だから敏感に反応するんだろうね。
俺は30年以上、ヌードを撮ることで元気のない日本の文化に警鐘を鳴らしてきたと自負している。ところがどうだ。今の若者が元気を取り戻したかというと全くそんなことはない。引き籠もりだの草食男子だの、停滞し疲弊しきった社会の中で若いエネルギーが行き場を失っている。「二十歳にして心朽ちたり」という唐の漢詩がある。
まだ若いのに心は老人、やることはないという意味だが、それじゃ寂しいだろう。薄っぺらい虚栄心を満たすためにネットでいじられごっこをしてアイデンティティを確かめるなんてくだらない。
だから青年たちよ、もっと毒を喰らえ!
【PROFILE】かのうてんめい/1942年、愛知県出身。1969年、ニューヨークで、人種差別や性差別の問題提起となった個展「FUCK」を開き、一躍注目を集める。1993年『月刊THE TENMEI』創刊。公称70万部という記録的な売り上げを果たした。
※SAPIO2016年9月号