近年では、毎回一人のゲストと即興で芝居を作り上げていくテレビ番組『スジナシ』で当意即妙の演技を見せている。
「あれは何も芝居してないんです。フリートークなんですよ。フリートークで、僕はインタビュアー。役を演じながらインタビューをしているんです。だから自然に見えるんだと思います。それは一般の人には観ていて分からないかもしれないけど、そうすることでなんぼでも役はできるというか。『誰か来はったんか』『あんた、いくつやねん』って聞くと、相手から返ってくるわけですから。
フリートークとの違いは、芝居だから黙れることです。トーク番組は黙れないじゃないですか。でも芝居は黙れる。ジッと考えていると、それが自然な間になるんですよね。
演技でも自然にしようとする思いを持っているんですが、それを持ち過ぎると自然じゃなくなる。フリートークをしていると自分なりの自然でいいんですが、芝居になって相手がいると、それに合わせて自然のあり方も違ってくるんですよ。
たとえばこの間、山田洋次監督の『家族はつらいよ』という映画に出たんですが、山田さんはオッケーを出さはったけど僕はすごい嫌だったんです。不自然やなと。笑わしにかかっている最悪の芝居と思ったんですが監督は駄目出しされんかった。なぜかと思って試写を観たら、全体のバランスを観ると、その『笑わしますよ』という芝居が映画には合うてるんです。自分としては嫌やったんですが、お客さんは笑うてる。
普通、ベタは自然じゃないんですが、ベタの方がナチュラルになる空間も映像の中にはあるということです」
●かすが・たいち/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社)など。本連載をまとめた『役者は一日にしてならず』(小学館)が発売中。
◆撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2016年9月9日号