リオの次はいよいよ東京五輪だが
時差がおよそ半日、昼夜逆転するためテレビ観戦には不向きだったリオデジャネイロ五輪だが、史上最多のメダルを日本が獲得したこともあり、眠い目をこすりながら連日、中継を見続けた人も多いだろう。諏訪中央病院名誉院長の鎌田實医師は、リオ五輪の感動を受け、4年後の東京でどのような五輪を期待するのかについて述べた。
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この夏は、リオ五輪に燃えた。前評判は何かと不安の多い大会だったが、蓋を開けてみれば、感動的な試合がたくさんあった。
古代オリンピックは2800年ほど前に始まった。4年に1度開催されるオリンピックは、戦乱の絶えない都市国家間の「聖なる休戦」を意味した。この理念を、近代オリンピックも受け継いでいる。
だが、実際には1936年のベルリン大会は、ナチスドイツのプロパガンダに利用された。東西冷戦時代、モスクワ、ロサンゼルスの2大会では、ボイコット問題で政治とスポーツの関係が問われた。
ドーピングの歴史も見逃せない。今回、明らかになったロシアの国家ぐるみの不正は、愛国主義を鼓舞する、オリンピックの政治利用としかいいようがない。
オリンピックには経済効果も期待されている。だが、実際は正反対。五輪開催国のスペイン、ギリシャは五輪後、国家が壊れそうになるほど、経済がどん底に落ち込んだ。ロンドンでは格差社会が広がり、EUからの離脱を決定。戦争を繰り返してきたヨーロッパにおいて、この選択は平和への逆行といわれている。
今回のリオ五輪を開催したブラジルも、かつてBRICs(ブリックス)といわれ、世界の経済をけん引してきたが、不況に苦しみ、政変が起きている。簡素なオリンピックに戻す必要がある。
オリンピズムの根本原則は、「肉体と意志と知性の資質を高め、バランスよく結合させる生き方の哲学である」と明記している。
オリンピックは、メダルのためにあるのではない。まして、政治や経済のためにあるわけでもない。まもなく始まるリオ・パラリンピック、そして4年後の東京五輪でも、真に人間らしいドラマと感動の言葉を期待したい。
●かまた・みのる/1948年生まれ。東京医科歯科大学医学部卒業後、長野県の諏訪中央病院に赴任。現在同名誉院長。チェルノブイリの子供たちや福島原発事故被災者たちへの医療支援などにも取り組んでいる。近著に『「イスラム国」よ』『死を受けとめる練習』。
※週刊ポスト2016年9月16・23日号