ビジネス

プレミアムフライデーは税金を無駄遣いする馬鹿げた構想

経営コンサルタントの大前研一氏

 安倍政権が提唱する働き方改革のひとつとして、月末金曜は午後3時に仕事を終える「プレミアムフライデー」構想がある。経営コンサルタントの大前研一氏は、安倍政権の働き方改革を愚策だと批判してきているが、さらに「プレミアムフライデー」についても厳しく論評する。

 * * *
 前号では安倍政権の強制的・一律的な「働き方改革」を“愚策の極み”と批判したが、さらにとんでもない「プレミアムフライデー」なる構想が政府・経済界で検討されていると報じられた。

 産経新聞(8月13日付)によると、月末の金曜日は午後3時に仕事を終え、それに合わせて流通業界や旅行業界、外食産業などが夕方にイベントを開催して買い物や旅行などを促し、個人消費を喚起する。経団連は政府に先行し、10月にも実行計画を策定する方針だという。

 日本経済新聞(8月18日付)では、プレミアムフライデーの名称はなく「イベント名に『プレミアム』を使う方針」とだけ報じているが、そのための経費として経済産業省は今年度補正予算で数億円程度計上したい考えだとしている。

 いやはや、呆れて開いた口がふさがらない。馬鹿も休み休み言ってもらいたい。すでにネット上では批判も出ているが、これほどサラリーマンの実態を理解していない話はない。月末締めの仕事では月末の金曜日に早く帰ることなど不可能だし、仮に可能だとしても、そのしわ寄せで他の日の残業が増えるだけである。

 そもそも月末の金曜日の午後3時に退社して、いったい何をしろというのか? まっすぐ帰宅しても、所帯持ちのサラリーマンの多くは自分専用の書斎がないから、家に居場所はない。奥さんや子供に邪魔者扱いされるのがオチだろう。

 だからといって、明るいうちから営業している駅前やガード下の焼き鳥屋や居酒屋でちょい飲みしたり、デパートなどで買い物をしたりしたくても、先立つものがない。新生銀行の「2016年サラリーマンのお小遣い調査」によれば、お小遣いの平均月額は男性会社員が3万7873円、女性会社員が3万3502円で、この10年以上、ほとんど増えていないのである。

 そもそも定時退社でも余裕で買い物ができるし、少し残業してもデパートや専門店は夜8~9時まで開いているから、さほど普段の買い物には不自由していない。ただでさえ、大半のサラリーマン世帯は消費を控え、衣料品にしてもユニクロやGU、しまむら、H&Mなどファストファッションのセールで買っているのに、なぜ「プレミアム(割増価格)」という発想が出てくるのか、全く理解できない。

 また、旅行にしても、金曜日の夕方から出かけようと考える人は少ないだろう。なぜなら、金曜日は移動して宿泊するだけになるからだ。日曜日までの2泊3日でも旅先で活動できるのは土日の2日間である。よほど前泊のメリットがあるケース以外では、金曜日の夕方よりも土曜日の朝に出発したほうが宿泊費を節約できるので、そちら選ぶ人が多いに決まっている。

 政府が、こういう仕掛けを作るから、お前たちは休みなさい、買い物をしなさい、旅行をしなさい、財布の紐を緩めなさい――というのは結局、「働き方改革」と同じく“上から目線”で箸の上げ下げまで指図するような「マイクロ・マネージメント」にほかならない。もし、金曜日の午後3時に帰りたいという社員がいたら、会社の制度として(それぞれの会社の事情に応じて)年に何回かは3時に帰っても早退扱いにはしない、とすれば十分だ。

 ただし、その後「プレミアムフライデー」についての報道は盛り上がっていないようなので、この構想は立ち消えになるかもしれない。まかり間違って実現したとしても、一時期多くの企業が導入した毎週水曜日を「ノー残業デー」として定時に帰宅するよう促すという制度のように、ほとんど定着しないだろう。

 いずれにしても、これは「余計なお世話」であり、このような馬鹿げた構想が出てくるのは、霞が関の官僚と大手町の財界人がサラリーマンの生活実態を全く理解していない証左である。安倍政権は、重箱の隅をつつく「マイクロ・マネージメント」で税金を無駄遣いするのはもうやめて、企業とサラリーマンのことは放っておいてもらいたい。

※週刊ポスト2016年10月7日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

17歳差婚を発表した高橋(左、共同通信)と飯豊(右、本人instagramより)
《17歳差婚の決め手》高橋一生「浪費癖ある母親」「複雑な家庭環境」乗り越え惹かれた飯豊まりえの「自分軸の生き方」
NEWSポストセブン
本誌『週刊ポスト』の高利貸しトラブルの報道を受けて取材に応じる中条きよし氏(右)と藤田文武・維新幹事長(時事通信フォト)
高利貸し疑惑の中条きよし・参議院議員“うその上塗り”の数々 擁立した日本維新の会の“我関せず”の姿勢は許されない
週刊ポスト
大谷翔平の妻・真美子さんの役目とは
《大谷翔平の巨額通帳管理》重大任務が託されるのは真美子夫人か 日本人メジャーリーガーでは“妻が管理”のケースが多数
女性セブン
殺人未遂の現行犯で逮捕された和久井学容疑者
【新宿タワマン刺殺】ストーカー・和久井学容疑者は 25歳被害女性の「ライブ配信」を監視していたのか
週刊ポスト
店を出て染谷と話し込む山崎
【映画『陰陽師0』打ち上げ】山崎賢人、染谷将太、奈緒らが西麻布の韓国料理店に集結 染谷の妻・菊地凛子も同席
女性セブン
高橋一生と飯豊まりえ
《17歳差ゴールイン》高橋一生、飯豊まりえが結婚 「結婚願望ない」説を乗り越えた“特別な関係”
NEWSポストセブン
西城秀樹さんの長男・木本慎之介がデビュー
《西城秀樹さん七回忌》長男・木本慎之介が歌手デビューに向けて本格始動 朝倉未来の芸能事務所に所属、公式YouTubeもスタート
女性セブン
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
雅子さま、紀子さま、佳子さま、愛子さま 爽やかな若草色、ビビッドな花柄など個性あふれる“グリーンファッション”
女性セブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
離婚のNHK林田理沙アナ(34) バッサリショートの“断髪”で見せた「再出発」への決意
NEWSポストセブン
フジ生田竜聖アナ(HPより)、元妻・秋元優里元アナ
《再婚のフジ生田竜聖アナ》前妻・秋元優里元アナとの「現在の関係」 竹林報道の同局社員とニアミスの緊迫
NEWSポストセブン
大谷翔平(左/時事通信フォト)が伊藤園の「お〜いお茶」とグローバル契約を締結したと発表(右/伊藤園の公式サイトより)
《大谷翔平がスポンサー契約》「お〜いお茶」の段ボールが水原一平容疑者の自宅前にあった理由「水原は“大谷ブランド”を日常的に利用していた」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
「週刊ポスト」本日発売! 岸田首相の脱法パーティー追撃スクープほか
NEWSポストセブン