保険は基本的に銀歯1本で、約3000円(3割負担の場合)。自費なら、天然の歯と同じように見えるセラミックなどが選択できる。ただし、東京では1本8万~15万円程度の費用がかかる。
「保険で治療した銀歯が二次カリエス(治療箇所の虫歯再発)を引き起こして、ひどい状態になっている患者が多いです。治療費が安い保険診療という選択が、歯を失う結果に繋がっていることに気づいてほしい」
こう指摘するのは、千葉市の吉川歯科医院・吉川英樹院長だ。削って詰める、被せる、という銀歯の保険治療が歯を失う負のサイクルになっていることは本連載でも指摘してきた。
「私が診てきた銀歯の9割以上がマージン(縁)不適合でした。これは銀歯が、歯にぴったりと合っていない状態を指します。その隙間から細菌が侵入して歯の根(根管)で増殖した結果、抜歯となってしまうのです」(吉川院長)
診療報酬が低い保険診療では、多くの患者を治療しなければ経営が成り立たない。必然的に一人の患者に使える時間は限られ、丁寧な治療は現実的に難しい。
それなら自費診療は、何がどう違うのか?埼玉県行田市の坂詰和彦院長(坂詰歯科医院)は、歯の型をとる印象と呼ばれる作業が、最も重要だと指摘する。
「フィットしたクラウンを作るには、印象をとる前の『歯肉圧排』が必要です。この手順を踏むと、マージン(縁)の境目が露出した状態で印象を取ることができます。ただし、歯肉圧排には、手間と時間が必要なので大半のクリニックでは自費診療になります」
銀歯のクラウンを製作している、ベテランの歯科技工士に確認したところ、大半の印象は歯肉圧排されていないと答えた。つまり、マージンが曖昧な銀歯が、二次カリエスの原因になっていた可能性が高い。
●文/岩澤倫彦(ジャーナリスト)と本誌取材班
※週刊ポスト2016年10月7日号