インバウンド景気で好業績を叩き出し、新たに羽田発着の国際便を就航させるなど、“絶好調”に見える全日空(ANA)だが、社内では「日本航空(JAL)の反転攻勢」が懸念されているという。国内2大キャリアが繰り広げる壮絶なバトルの舞台裏を追った。
10月30日、ANAの羽田―ニューヨーク便・シカゴ便が新規就航するが、それに先立って同社は、ニューヨークの観光スポットや人気料理を紹介するテレビCMを大量投入するなど、「日本最大の国際線ネットワーク」を強調するのに躍起だ。
営業部門のANA社員はなぜか浮かない顔をする。
「昨年度、うちは初めて国際線旅客数でJALを上回り、今年度は連結純利益で過去最高を更新する見込みです。それなのに、上司たちは“今のうちにもっと業績を伸ばさないと来年春に大変なことになる”“次の4月には、檻に閉じ込められていた虎が解き放たれる”と戦々恐々なんですよ」
一体どういうことなのか。
◆「今が最後のチャンスだ!」
背景には、2010年に経営破綻したJALに課された“制約”が来年4月で解かれるという事情がある。国交省担当記者の解説。
「JALは民主党政権の前原誠司・国交相(当時)の下で2010年1月に会社更生法の適用を申請し、3500億円もの公的資金注入や金融機関の債権放棄を受けています。さらには実質的な法人税の減免措置も受けた。
そのおかげで2011年度には早くも営業利益2000億円とV字回復を果たしたのですが、これには当時の野党・自民党から“公正な競争を歪めた”と猛烈な批判が巻き起こりました」
そこで国交省は2012年8月10日、〈日本航空の企業再生への対応について〉と題する文書を公表。JALの新規投資や路線開設を監視していくとした。文書は公表日にちなみ「8・10ペーパー」と呼ばれている。
「乱暴にいえば、『公的支援などの“下駄”をはいている破綻会社なのだから、儲かる路線の開設を簡単には認めませんよ』という意味合いを持つ文書です」(同前)