その趣旨に沿い、国交省は2012年以降、羽田で新たに増えた発着枠をANAに手厚く配分してきた(2012年国内線、ANA8・JAL3/2013年国際線、ANA11・JAL5/2016年国際線、ANA2・JAL0)。
「この8・10ペーパーに基づく“是正措置”が、来年3月末にいよいよ期限を迎え、JALは自由に新規投資ができるようになる。今回の羽田―ニューヨーク便・シカゴ便の就航は、ANAにとって期限切れ前の最後の攻勢チャンスなのです」(前出の担当記者)
そうした事情が、新規就航の猛アピールにつながっているとみられているのだ。
ANA側が警戒感を募らせるのも当然で、今年度の業績見通しではANAの当期利益が800億円なのに対し、JALは1920億円。ANA関係者からは「税金も納めずに利益を積み増して、自助努力の再建といえるのか」(OB)と不満が続出している。
一方のJAL側は来年4月以降の新規投資や路線開設について「検討中」(広報部)と多くを語らないが、航空ジャーナリストの青木謙知氏はこうみる。
「まずは機材の新型化に積極的に踏み出すはずです。現在、米航空大手ボーイング、欧州のエアバス両社の機種が混在していますが、中小型機を含めエアバスに切り換えてコスト削減につなげる選択があるでしょう。
新規路線についても、羽田─フランクフルト(ドイツ)のようなANAと競合する路線を捨てて、代わりに一旦廃止したが需要のありそうなローマ(イタリア)便あたりを開設する手が考えられる」
JAL側も破綻して数々の“屈辱”を味わった。長年担ってきた「政府専用機」の整備業務は、2019年度からANAに奪われることが決まっている。
政府専用機に乗務するのは航空自衛隊のパイロットや客室乗務員だが、天皇や総理大臣といった要人が飛行機から降りる際のタラップに記されたロゴの宣伝効果は大きい。
「機内の運用サポートなど手間のかかる仕事で儲けにはならないが、企業のステイタスにつながる業務」(前出・青木氏)
まさに、“ナショナルフラッグキャリア”の座を奪われた象徴的な出来事だろう。だからこそ、反転攻勢に力が入って当然だ。