一方の父は90歳を超えても頭はしっかりしていましたが、母の死を受け入れようとしませんでした。母の葬儀にも出席せず、僕や姉が何度も何度も「お母さんは先に逝ってしまったよ」と告げても、信じようとしません。
結局、母の四十九日法要も終わらないうちに父も亡くなりました。母にできなかったぶんの親孝行をしようと思っていた矢先の出来事でした。“主従”に見える関係だったけど、やっぱり父は母を追っていったのだなと、母の存在の大きさを改めて感じました。
両親の立て続けの逝去を通じて感じたのは、「死んだら終わりだ」ということです。母もこれから楽しい余生を送るつもりだったときに亡くなってしまったし、父も僕たちが親孝行しようと思っていたら亡くなってしまった。
人間、生きているうちが華なのだとつくづく思います。1年でも1日でも長く生きることが、家族のためなんだなと感じていますね。
●さいごう・てるひこ/鹿児島県生まれ。龍美プロ(現・サンミュージック)に入社後、1964年に『君だけを』で歌手デビュー。その後はNHK大河『独眼竜政宗』や『水戸黄門』などに出演し、俳優としても活躍。
※週刊ポスト2016年10月14・21日号