GHQは神社界以外にも、「日本の軍国主義の元凶」をたたきつぶすため、財閥解体や一部政治家・官僚らの公職追放など、さまざまな手を打った。
しかしよく知られるように、GHQは共産主義勢力の勃興を目にしてこうした「軍国主義者狩り」の手を最終的にゆるめる。財閥や政官界への制裁は不徹底に終わり、解体された陸海軍の軍人らも、警察予備隊(後の自衛隊)の創設に関わっていった。
だが、神社界にそうした“お目こぼし”は遂になかった。その意味において、神社界とは「GHQに完膚なきまでにたたきつぶされた非常に珍しい業界」なのである。
この終戦時の苦すぎる記憶が、「右派の立場からアメリカを敵視する」という、“反米右派”の思想を神社界に形成していくことになる。そしてまた同時に、「神社界の黄金時代だった大日本帝国のあのころ」を取り戻したいという戦前回帰思想も、神社界に深く静かに浸透していく。
ただし、戦後日本の右派・保守界隈において、“反米”とは決して主流の考え方ではなかった。
自民党や読売新聞といった戦後保守の代表的グループにしても、岸信介や正力松太郎がCIAのエージェントであったなどと言われるように、“アメリカとの太いパイプ”を前提に存在してきた“親米集団”である。
●おがわ・かんだい/1979年、熊本県生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。宗教業界紙「中外日報」記者を経て、季刊「宗教問題」編集長に。
※SAPIO2016年11月号