出生率が低下し続けている日本。いま、未婚、不妊治療、シングルマザー…子供にまつわるさまざまな問題があるが、何が幸せで不幸なのだろうか。妻が原作、夫が漫画と二人三脚で活動。不妊治療中の出来事を綴った『不妊治療、やめました。』(ぶんか社)が話題の漫画家夫妻、堀田かよさん(54才)・あきおさん(60才)に聞いた。
堀田さん夫婦が不妊治療を始めたのは、子供が欲しかったからというより、子宮内膜症の改善のためだったという。当時、29才。それがいつしか産むこと自体が目的になっていたという。
「不妊治療は、医師から体外受精を提案されるまで、のべ10年間続けました。そのうち、当時10%もいかない成功率の体外受精に1回100万円を何度も投じる意味って何だろう。そこまでして子供が欲しいのか?とふと、立ち止まってしまったんです。夫婦で“そこまでする必要はないね”、と自然と結論が出た。高名なクリニックにも通ったし、高度な医療を受けたし、やるべきことはやった、もういいや、と」(かよさん)
とはいえ、こう決めるまでにはとても時間がかかったとも。その後は、仕事で1か月アジアをまわったり、忙しくてあっという間に月日が流れてしまったのだという。
「夫は、“結局治療中も治療後もすごく仕事が忙しいのは変わらなかったから、子供がいようがいまいが、生活は同じだったんじゃないか”と言っていますが、私も同感。子供がいないからこそできたこと、得られたことはあるし、夫婦で一つのことを乗り越えてきた経験も宝。今となればいい思い出ですね。子は宝といいますが、子づくり経験自体も宝です。
それと、子供ができずに苦労している人の気持ちが理解できたのも貴重な体験でした。ひいては、未婚者、社会的な弱者への思いも強くなったと思う。それだけでも、私は“こっち側”でよかったって思っています」(かよさん)
不妊体験者を支援するNPO法人Fine代表・松本亜樹子さんによると、堀田さん夫妻のように不妊治療をきっぱりやめられる人はわずかだという。
「あともう1回体外受精をすればできるかもと、何年も治療を続け、多額のお金をつぎ込み、採卵ができなくなった、貯金が底をついたなど、やめざるを得なくなって断念するケースが多いのが現実です。長期の治療で、仕事を続けられなくなる人もいます。そうすると病院以外に居場所がなくなってしまうんですよね。
私は治療に迷ったかたには『30年後、どうなっていたいかを想像してほしい』とよくお話しします。子供がいても、60代70代になれば夫婦ふたりに戻る。その時、どんな夫婦になっていたいかが大切なんです。“子供のいる家庭”だけが幸せの形ではない、人の数だけさまざまな幸せがあるということを、お伝えしたいですね」(松本さん)
※女性セブン2016年10月27日号