当時、外科医の世界は“体育会系”。手術中に「外科医なんか辞めてしまえ!」と怒鳴られたり、手術器具で叩かれたり、頭突きされたりもした。しかし、記録を続けたノートのおかげで、道具の使い方の基本が身についたと宇山氏は話す。
では、「名医とそうでない医師」の違いは何なのか。
「どれだけ真剣に手術しているか、それだけです。患者さんのためには、経験のない手術に挑まなければならないこともある。その時に頼りになるのは自分が得た知識と正しい道具の使い方だけ。
道具さえ正しく使えれば、時間はかかってもきちんと手術ができる。そこに場数を踏むことで経験値が加わり、スピードがどんどん速くなるというだけのことなんです。やったことがないとか、教わったことがないという理由でしり込みする医師に、進歩はありません」(宇山氏)
知識と技術をもとに、初めての手術にも果敢に挑む。その積み重ねこそが、名医への道なのだ。そのために大事なのは「ヒューマニティ」だと宇山氏は話す。
「人間性とは、優しいとかいうことではなく、目の前の難しい患者さんをどう治すかに真剣に取り組んでいるかどうか。誰がやっても治るような手術に名医は必要ありません」
※週刊ポスト2016年10月28日号