患者にとって執刀医とは命を預ける存在である。できるなら“神の手”を持つ「名医」に任せたいが、残念ながらそうした医師はとにかく数が少ない。そもそもなぜ手術の上手い医師と下手な医師の差が生まれるのか。
心臓外科の名医として知られる、昭和大学医学部心臓血管外科教授の南淵明宏氏は「人間性」を名医の条件として挙げる。
「もちろん技術と経験が必要で、症例数が多いことが最低条件ですが、患者さんひとりひとりの事情にコミットし、熱意をもって治療できる人は若くても名医といえます。『患者の立場に立つ』というのは言葉では簡単でも、実際にはみんなその“つもり”になっているだけ。
例えば心臓手術の後に別の治療が必要になったり、血液が凝固しにくくなるワーファリンなどの薬を服用している場合もある。そうした外科手術にはリスクが伴うため、しり込みしてしまう。患者さんの利益を考えて、自分の持てる力でリスクを克服しようとする医師はまれです」(南淵氏)
外科手術の名医になれる素質として、手先の器用さが求められるのはもちろんだが、それ以上に「画像認識能力」が重要だと南淵氏。
「手術部位をパッと見て、そこに異変があれば瞬時に『何かおかしい』とわかる能力。直観力とも言えますが、それよりも画像認識能力と呼ぶほうが相応しいと思う」(南淵氏)
※週刊ポスト2016年10月28日号