まず手続きが面倒だ。事前申請が必要で、投票所も総領事館など限られている。だが、それは表向きの原因ではないか。申請は現在、ネットで行えるようになった。投票の不便さに関しても、たとえば首都圏から離れて暮らす人々のため、民団(在日本大韓民国民団)がバスをチャーターして遠方の投票所まで運ぶという便宜を図っていた。2016年選挙からは投票所も増やした。

 小誌がとった在日韓国人へのアンケートでは、多くが韓国政治への「無関心」を口にする。

「両親が韓国籍だから自分も韓国籍なだけでもともと韓国人だという意識はない」(39歳・男・不動産業)

「今回ネット登録が簡略化されたということで申請してみたが、ハングル入力項目がかなりあり、ほとんどの在日韓国人にはハードルが高いのではないか」(37歳・女・フリーライター)

「通知が来ないから。韓国の選管がさぼっているとしたら由々しき問題だ」(43歳・男・ジャーナリスト)

「韓国政治は財閥との癒着で成り立っているため、セヌリ党だろうが、民主党だろうが、根本的な仕組みはかわらない」(32歳・男・自営業)

 その深層には、戦後、在日韓国人が被ってきた本国からの棄民政策の影響が見てとれる。

 背後からは北朝鮮の脅威にさらされ、国内では軍事クーデターに苛まれてきた。そんな韓国で在日韓国人への関心は低い。1980年、元韓国首相の金鍾泌(キムジョンピル)氏は『諸君!』のインタビューに、こう語っている。

「日本で生まれ育った二世、三世は、もう日本人になり切りなさい」

 日本でマイノリティとして暮らす彼らは、本国からも切り離されてしまった。在日問題に詳しい韓国在住の日本人研究者が話す。

「在日韓国人は長く“国家”と距離を置いてきた。さらに世代も進んだ彼らに、今さら、在外投票を通じて、本国の国家運営に主体性を持てと言っても酷な話だ」

 また、アンケートでは、在日三世の男性(34歳)のこんな声もあった。 「日本の選挙権を持っていないので、そもそも選挙に参加するという感覚がない」

※SAPIO2016年11月号

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