東京都千代田区といえば、人口わずか5万人足らずながら、巨大ターミナルの東京駅地区や、日本一の電気街である秋葉原地区、飲食店も多い神田・水道橋地区などを抱え、区外から流入する“昼間人口”は100万人規模に及ぶ。
そんな千代田区が2002年10月、全国で初めて施行して話題となったのが、たばこのポイ捨てや区内全域での路上喫煙を禁じる「千代田区生活環境条例」だ。しかも、違反者には2000円の過料(地方自治体が定めることができる罰則)を科す強行策に打って出たため、条例の制定後も賛否入り乱れての大議論を巻き起こした。
当時の区職員の奮闘ぶりやトラブル・クレーム続出の過料徴収現場の様子は、千代田区生活環境課が2003年に刊行した書籍『路上喫煙にNo!──ルールはマナーを呼ぶか──』(ぎょうせい刊)にも詳しく記録されている。
パトロール隊を見かけるや逃げ出す人、「北海道から来たばかりで条例も知らなかった」と肩を落とす男性、「カネ渡せばいいのかよ!」と3万円を地面に投げ捨てて立ち去る女性……。区役所には、「国民の喫煙権利を侵害する横暴な条例だ!!」とのクレーム電話が鳴りやまなかったという。
「今でも『条例があるならその辺に書いてもらわなければ分からない』、『他に吸える場所がないから仕方ない』と怒り出す路上喫煙者はいます。
しかし、誤解していただきたくないのは、この取り組みは、たばこそのものに反発する“禁煙条例”ではなく、あくまでも街をキレイにすることを目的に、吸う場所をわきまえてくださいという“分煙規定”なのです」
こう話すのは、安全生活係長の松下晃氏。では、条例施行から丸14年経った今、過料を伴う罰則が着実にポイ捨てや歩きたばこを止めない人たちの抑止力に繋がっているのか──。
千代田区が公表している「路上喫煙過料処分件数」の推移を辿ると、年ごとに5000~1万件と幅はあるものの、必ずしも右肩下がりではなく増減を繰り返している。しかも、直近3年は平均を超える7000件台前半が続く。この状況をみる限り、批判を浴びながらも多くの時間と労力を割いてきた取り締まりが、さほど効果を生んでいないように映る。
だが、同課の小山雄大氏はこう否定する。
「処分件数が極端に減らないのは、交通ルールと同じで、分かっていても守らない人が一定数いるからだと思います。でも、皆さんも感じているでしょうが、いま街中で平然と歩きたばこをする人はほとんど見かけなくなりましたし、ポイ捨ての本数も以前とは比べものにならないほど減っています。
区内では条例可決前からずっと、苦情が多かったポイ捨てエリアをいくつか定点観測しています。例えば、条例施行前は1000本近くの吸い殻が落ちていた秋葉原の重点ポイントも、いまでは10本落ちているかどうかのレベル。過料処分だけがすべてではありませんが、条例は確実に浸透していると思います」