春男を重用する上田は、一方で栄転の話があっても彼を手放してくれず、おかげで主任どまり。その上田が急死する。店長代理として〈人参詰め放題〉や〈カボチャのスープ〉無料配布など、密かに店内の改革を進める春男は、〈店長になったんだって〉と周囲から早とちりされる度に、ニヤけてしまうのだ。

 ところがその後、事態は誰もが予想することができない方向へと向かっていってしまう。そんな時、彼が立ち寄るのが、定食屋〈おかわり〉だ。注文は深夜でもカツカレー。昔ながらの一皿をガツガツ無心に平らげる春男に、主のばあさんが言う。〈それだけ食えれば大丈夫だ〉。この時にわびしく、時に心躍る一皿が、何かと複雑な彼の心を映し、印象的だ。

「カツカレーねえ。皆さん、よくこのシーンを褒めてくれるんだけど、え、そこがいいの? って。あと、小学生の息子が野球とサッカーの〈二刀流〉として活躍する日を夢想する春男が、練習試合の昼飯にグラウンドで〈流しそうめん〉をやろうとするシーンとか、ウケると思ってないところがウケたりしてね。小説ってホント、難しいね。

 僕は小説をほとんど読まないからプロットは書けないし、毎回、苦し紛れ。カツカレーも、公私ともにいろいろあった春男が定食屋に寄って、さあこの章も終わるぞっていう自分用の合図だったのね。そのうちこのシーンが自分でも気に入って、後半は頼り過ぎた気もする。まあカツカレーは僕も好きだし、みんなも好きなら、いいんですけど」

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