できるなら、なるべく苦しまず、周囲にも迷惑をかけずに死にたという願いを持つ人は多い。年を取るとそれも難しいかもしれないと思いがちだが、逆に、痛くない死に方や、周囲に不愉快な思いをさせない老いを迎えられる可能性も少なくない。そんな病について紹介する。
●心筋梗塞
心臓の冠動脈が詰まって血流が低下し、心筋細胞が壊死する心筋梗塞。通常は胸を締め付けるような強烈な痛みが患者を襲うが、高齢になると気づかない例もある。日の出ヶ岡病院のホスピス医・小野寺時夫医師がいう。
「無痛性心筋梗塞といいますが、高齢になればなるほど痛みに鈍感になり、強い症状がない人が出てきます。しかし、これは命に関わることで、異常に気付かないのは決していいこととはいい切れない」
とくに糖尿病患者に無痛性心筋梗塞が起きやすく、血管が詰まったことに気づかず、壊死が進んで手遅れになることも少なくない。痛みがなくても、異常を感じたら病院に駆け込むべきだろう。
●認知症
加齢=進行の印象がある認知症も高齢になると概して症状が軽くなるという。71歳で認知症と診断された父親を持つAさんの話。
「当初、父はイライラして暴言を吐いたり、徘徊したりと家族も手を焼いていたのですが、83歳ころからすっかり穏やかになり、いつもニコニコしているようになりました。寄り付かなくなった孫やひ孫も最近になって会いに来るようになり、ほっとしています」
同様のケースは決して少なくないようだ。在宅医療を実践する長尾クリニック院長・長尾和宏医師がいう。
「認知症で家族に疎んじられた人でも、80歳まで生きると性格が穏やかになり、丸くなって愛される。認知症が中程度のうちはよく怒る人でも、年を取るうちに少し前の記憶もなくなり『今』だけを生きられるようになります」
※週刊ポスト2016年12月9日号