(2)電気駆動
2016年はクルマを電気で走らせるというトレンドが加速する兆しを見せた年でもあった。
よく、EV対燃料電池車、EV対プラグインハイブリッド(充電可能なハイブリッドカー)といった対立軸が取り沙汰されるが、実はそういう比較にはあまり意味がない。現時点では、全部アメリカの環境規制適合のためのアイテムの域を出ず、市場もきわめて小さいからだ。技術面もまだまだ未熟だ。
が、クルマを電気で走らせるのは効率の面では非常にいいことは事実で、今後、この特性を生かすつもりのないメーカーもない。2017年はコストが高い、航続距離が短い、充電に時間がかかるといったEVの弱点を克服しようとする技術の開発競争が激化するものと考えられる。
航続距離の実数については、ルノー・日産アライアンスがルノー「ZOE」で欧州モード走行時400kmにまで引き上げるなど、十分とは言えないまでも徐々に伸びてきている。また、プラグインハイブリッドはEV航続距離は短いが、バッテリーを最後まで使い切ることができるため、これまた結構EVらしく走れる。
これらがもっと進歩するには、バッテリーの技術革新が必要。小さく軽いバッテリーに大量の電力を詰め込むことが可能になるような個体電解質、新電極、新電解液など、複数の技術が今年発表になるかもしれない。
電池そのものの発達と並び、バッテリーに素早く電力をチャージする急速充電の改良も始まるだろう。
欧州では自動車メーカーや電気設備メーカーが集まり、超急速充電の普及に取り組み始めた。これは現在の欧州充電規格の2倍近く、定格50kWの日本のChaDeMo急速充電器の実に7倍に相当するのに対し、350kWというものすごいパワーを持つ。
ChaDeMoも100kW化が検討されているが、もう一段の技術革新が求められるかもしれない。いずれにせよ、EVの間口を一般顧客に広げていくためには大幅な技術革新が不可欠で、世界を巻き込んだ競争が展開されるだろう。
(3)IoT
世の中で騒がれているIoT(Internet of Things=モノのインターネット)。コンピュータ制御が高度に進んだ今日のクルマはIoTへの親和性は高いはず。だが、日本の自動車メーカーはIoTに口先ではポジティブに取り組んでいると言うものの、実際にはおしなべて及び腰だ。
クルマのIoTを本格的に行うとなると、ECU(車載コンピュータ)がクルマをどう制御しているか、そのかなり重要な部分まで公開する必要が出てくる可能性がある。
技術志向が高く、それだけに技術の囲い込み意識が強い日本の自動車メーカーは、なるべく自分たちの秘中の秘としている部分がばれないよう、公開する範囲を慎重に選んでいる。IoTによるビジネスの変革をキャッチアップ、あるいは先取りするという観点では、この慎重姿勢は裏目に出る恐れがある。
実際、日本メーカーが提唱するIoTの多くは、クルマを人とインターネットを結ぶデバイスくらいのものにとどまる。が、IoTにとって、顧客にドライブ情報やエンターテインメントを提供するというのは、むしろ枝葉末節の部分。
クルマが「眠くないですか」と語りかける程度のことにどれほどの付加価値があるのかを考えれば、くだらなさが実感できよう。その観点では、前出の自動運転やクルマの電動化より、よほど日本陣営の立ち位置が心配になる分野だ。
IoTに関して、技術的に一番進歩的な日本メーカーはトヨタだが、クルマの位置情報、制御情報などを積極公開し、クルマ単体については純粋にエモーショナル、省エネルギー、安全で勝負するという割り切りを一番持てているのは、オープンソースに慣れた欧州のルノーと協業している日産だろう。
今後、自動車産業が頂点という意識を捨てて、囲い込んできた利権を手土産に、ITプラットフォームベンダーなど他業界とどれだけ良い関係を築けるかどうか。自動車メーカー側の意識改革がどういう形で出てくるかは、2017年の焦点になるだろう。