ダライ・ラマ14世
チベット仏教の最高指導者、ダライ・ラマ14世は激動の世を生きる世界の人々にこう語りかける。「人類には大きな希望がある」と。
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私は21世紀を生きる人々、とくに若い世代には今世紀を「平和の時代」にする責任があると思っている。20世紀が幸福な時代だったならば、同じようなやり方を続ければよいのだが、実際は違う。前世紀は「戦争と流血の時代」であり、結果的に2000万人もの人類が死んでいった。残念ながら、20世紀を一言で表現すると「勝つか負けるかの時代」ということになる。
しかし、物事は一つの方向から見るだけでなく、複眼的に見ることが必要だ。19世紀から20世紀前半にかけて人類は戦争を繰り返したが、20世紀後半には良いこともたくさんあった。さらに、21世紀に入って、前世紀と異なる進歩や改善点も出始めているはずだ。
例えば、ソ連邦の崩壊という歴史的事件は武力によるものではなく、民意によって起きた変化だ。中国はいまだに閉鎖された社会であり、検閲や情報封鎖は道徳的に正しくはない。13億の中国人には事実や世界の現実を知る権利があるのだ。我々の未来はもっと自由で、表現や思想、報道の自由がさらに確保されるべきだ。未来にとって唯一有効な方法は民主主義であると思う。
最近、アメリカで行われた選挙は非常に複雑なものだった。この選挙自体が「民主主義とは何か」「言論の自由とは何か」「思想の自由とは何か」ということを物語っていた。アメリカの指導者は交代し、考え方に変化もあるが、彼らは自由主義を貫いている。私はアメリカを自由・民主主義、法治主義の指導的国家であると考え、トランプ次期大統領にも書簡でそう伝えた。私はこれまで数人の米大統領や議会指導者とワシントンで会ったように、トランプ氏にも会いたいと思っている。
とにかく、世界のあらゆる国はそれぞれの国民の所有物にほかならない。それぞれの国民は常に存在し続けているが、その一方で、政府は時代に応じて変化し、指導者は交代していくものだと思う。
●インタビュアー/相馬勝(ジャーナリスト)
※SAPIO2017年2月号