ユーラシア・グループ代表のイアン・ブレマー氏 Dirk Eusterbrock
「G2」と言われたアメリカも中国も、その他の国々も、世界でリーダーシップを発揮することができない──そんな「Gゼロ」の時代をかねて予見していたイアン・ブレマー氏。同氏に新たな1年の国際社会の見通しを、産経新聞ワシントン駐在客員特派員の古森義久氏が聞いた。
* * *
アメリカ主体の米欧の集団防衛組織の北大西洋条約機構(NATO)をトランプ氏はそう重視はしていない。
アメリカはNATOの同盟諸国よりもロシアに接近して安全保障を考えるようになるかもしれない。だが米欧諸国がNATOを基盤に安全保障政策を共同で進めることは続くだろう。とくにテロ対策やサイバー攻撃対策ではNATOのきずなは大きいと言える。
だがNATOはトランプ政権下ではグローバルな安全保障を考える組織としては重要性を減らし、外部からの種々の圧力に悩まされる存在となろう。
テロリズムも新しい年の深刻な課題だ。アメリカ大統領選中はIS(イスラム国)などのテロ組織はトランプ候補の反イスラムの扇動的な発言を資金や人員の募集手段として利用していた。そのトランプ氏が大統領になるのだから、イスラムの過激な暴力組織は活動拡大のためにさらに魅力的な材料を得ることになる。
中東のいくつかの国での経済問題や果てしのない衝突は新たなテロ組織にも活動の余地を与えることになる。アメリカやその他の諸国はイラクやシリア領内でISと戦い、かなりの成功を収めた。このことはもちろんプラスの材料だが、2017年にはやはりテロは増えるだろう。