トヨタ「CH─R」参入でSUV戦争が激化
それだけの力作を迎え撃つ側のホンダは当然、戦々恐々である。リーマンショック以降、国内では軽自動車では元気なものの、普通車市場では度重なるリコール騒ぎや品質低下のために存在感を大幅に落としてしまい、体制たて直しの真っ最中。その国内市場において、数少ない元気印のモデルのひとつが、CH─Rが乗り込んでくるコンパクトクロスオーバーSUVカテゴリーのヴェゼルだったのだ。
ヴェゼルは、スタイリングはCH─Rほど仰々しくはないが、スタイリッシュさ重視という点では同じ。ハイブリッドパワートレインをラインナップしているという点も似ている。
ボディサイズは全長、全幅についてはCH─Rのほうが少しずつ大きい一方、全高はヴェゼルのほうがやや高い。イメージは両者、モロかぶりなのだ。デビュー以降、カテゴリートップを維持してきたドル箱モデルのヴェゼルがCH-Rに食われるような事態に陥れば、ホンダとしては大打撃になりかねない。
今後、この両モデルの激突の行方はどうなるのだろうか。
見た目のインパクトは、スタイル重視を貫いたCH─Rのほうが優勢で、ヴェセルにとってはかなりのプレッシャーになることは間違いない。が、必ずしもヴェゼルが完全に劣勢に立たされると決まったわけではない。
実はこの両モデル、クラスが違う。CH─Rのほうは主力ハイブリッドモデル「プリウス」と共通の新世代プラットフォーム、TNGAを使って作られたモデルで、車格としては欧州Cセグメント(フォルクスワーゲン「ゴルフ」クラス)に属している。
それに対してヴェゼルのほうはそれより1クラス下のBセグメント「フィット」を下敷きに構造を補強したり上等な部品を使用したりして作ったもの。自動車業界ではBC(Bクラスをベースに作られたCクラス)などと呼ばれている。
この違いが如実に表れているのは価格でCH─Rのスターティングプライスが250万円超であるのに対し、ヴェゼルは200万円アンダーから。トップグレードでも50万円くらいの開きがある。
モデルの性格も実はかなり異なっている。ヴェゼルはスタイリッシュSUVという触れ込みで登場したが、見た目はクーペライクながら、一方で実用性もかなり高い。
4人がゆとりをもって座れる車内と、容量十分にしてきっちりと四角の空間が確保された使いやすい荷室を両立させている。使い勝手はCセグメントに一歩も譲らない。ヴェゼルはCH─R以前にも、マツダのディーゼルコンパクトSUV「CX─3」の挑戦を受けたが、そのときにシェアを食われずに済んだのはひとえにこの実用性の高さのおかげだった。
見た目の商品性は似ているが中身もクラスも違うCH─Rとヴェゼル。上手く棲み分けられそうにも見えるのだが、ホンダをさいなむのは過去の苦い記憶。すなわちプリウスVSインサイトの戦いでインサイトが一敗地にまみれたという黒歴史である。