1月20日、ドナルド・トランプ氏がアメリカ合衆国大統領に就任した。トランプ氏の手法は、個別企業の経営方針を容赦なく批判して、経営者から譲歩を引き出そうとする。気に入らなければ自国の企業でも容赦しない。
米国からメキシコへの工場移転を計画していたフォードには、「恥知らず」と批判して計画を断念させ、メキシコで小型車の生産を始めたGMにも「高額関税をかける」と圧力をかけた。
そんなトランプ氏の“口撃”にしたたかに対応したのが日本企業の経営者だ。
米国での携帯電話事業拡大を狙うソフトバンクグループの孫正義・社長は、昨年12月にトランプ氏と会談し、今後4年間で米国に5兆円規模の投資をし、5万人の雇用を創出すると約束。トランプ氏から「すばらしい男だ」と称賛された。
孫氏は攻撃を受ける前に対応したが、例え攻撃を受けても動じない経営者もいる。メキシコ工場新設をツイッターで批判されたトヨタ自動車は、すかさず豊田章男・社長が工場新設を中止しないが、「今後5年間でさらに100億ドル(約1.1兆円)を米国に投資する」と提案した。「米国への貢献」を打ち出すことでトランプ氏の批判をかわした形だ。
昨年の大統領選挙期間中にトランプ氏に「米国企業の需要を奪っている」と暗に批判されたコマツは、大橋徹二社長が「我が社は米国工場で6000人を雇用し、トップも米国人」と反論したことで米国内での知名度が上がり、今やトランプ銘柄として株価の値動きが注目されている。
こうした日本の経営者のしたたかな対応は、これまで長きにわたり米国経済を支えてきたことに裏打ちされている。
日本企業は米国に累積で50兆円近い直接投資を行ない、170万人の雇用を創出し、米国経済の発展と輸出の拡大に貢献してきた。その貢献は軍需産業にも浸透している。経済誌『経済界』の関慎夫・編集局長が言う。
「トヨタやソフトバンクのような一般消費者向けの企業だけでなく、米軍兵器の製造にも日本企業は深く関与している。米軍のステルス戦闘機に使用される炭素繊維は、主に東レの技術力が使われています。トランプは軍需産業のテコ入れを示唆しているが、それを支えているのが日本企業である以上、日本の経営者たちはドンと構えていられるのです」
※週刊ポスト2017年2月3日号