日本は長寿国で、和食こそがその秘訣であるといわれてきた。ところが世界的にみて、日本人は食塩摂取量が多いことをご存じだろうか? しかも、その塩分過多を要因とする高血圧や重大な循環器系疾患にかかる人の割合が高いのだ。
そもそもどうして塩分の摂りすぎで血圧が上がり、高血圧がどんな悪影響を招くのか。日本高血圧学会の減塩委員会協力員でもある渡辺尚彦さんは次のように解説する。
「塩分の摂りすぎで血中ナトリウム(Na)の濃度が高まると、体内ではその濃度を一定に保とうと、体液や血液量が増加します。すると、より多くの血液を全身に送り出す心臓からの圧力が高まり、やがて動脈硬化が進行。脳卒中や心筋梗塞など循環器系疾患や血管性認知症を招くのです」(渡辺さん)
また塩分摂取過多は、胃がんの要因にもなるとも。
「というのも、胃がんの主原因として知られるピロリ菌の感染率も、塩分摂取過多の人ほど高いことが最近の研究でわかったのです」(渡辺さん)
このほか、骨粗鬆症や尿路結石、腎臓病も塩分の摂りすぎが招く疾患といわれている。とりわけ女性が気をつけねばならないのが骨粗鬆症だ。
女性は妊娠や授乳期などカルシウムを大量に必要とする時期があることに加え、閉経期を迎えると、卵巣から分泌される女性ホルモンのエストロゲンが急激に減少することにも関係がある。エストロゲンは、骨からカルシウムが溶け出すのを防ぐ役割を担い、エストロゲン量が低下すると、骨がもろくなる。
さらに厄介なのは、骨粗鬆症に高血圧が加わると、骨折リスクがさらに高くなること。大阪大学寄附講座教授で高血圧治療のエキスパートの森下竜一さんが説明する。
「閉経後に、女性の血圧が上昇しやすくなるのは、血管の弾力性を保つエストロゲン量が減少することが影響します。しかもエストロゲンの減少と塩分の摂りすぎが重なると、腎臓でのカルシウムの再吸収量が減って、尿と一緒にカルシウムが排出されてしまいます。これに高血圧が加わると、通常の1.45倍も骨折の頻度が高まるのです」
骨粗鬆症による骨折には、主に椎体骨折・大腿骨近位部骨折・橈骨遠位端骨折・上腕骨近位部骨折の4つがあるが、この中でも大腿骨近位部、つまり太ももの骨を骨折すると、そのまま寝たきりにつながってしまうリスクが高い。
だからこそ、高血圧予防と骨粗鬆症予防の2つの意味で、減塩はことに女性にとって、“老後の質”を左右する重要な食生活といってもいい。
「平均寿命が長い女性は、男性以上に塩分摂りすぎに注意し、減塩や適塩の習慣を若いうちから身につけておくほうがよいでしょう」(渡辺さん)
※女性セブン2017年2月9日号