日本で外国の名前や地名など固有名詞を表記するとき、現地語の発音を仮名に置き換えるのが原則とされているが、中国語の場合は慣例として、漢字の音読みをそのまま仮名にしてきた歴史がある。最近は中国の人名や地名でも発音時に聞こえる音を仮名にしているが、仮名で表現するのが難しい音が中国語には存在する。原則に忠実であろうとするあまり、読者を混乱させる奇妙な表記があふれるバカらしさについて、評論家の呉智英氏が解説する。
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この一月、朝日新聞に「林彪(りんぴょう)事件をたどってII」という全十回の特集記事が連載された。支那文化大革命期の1971年9月、有力者の林彪がソ連亡命を企てたが搭乗機が墜落し、林彪は死んだ。謎に包まれた事件を追った連載で、なかなか興味深かった。
しかし、1月27日の最終回で奇妙な記述に気がついた。
「著名な中国人作家、葉永烈(イエヨンリエ、76)は、毛沢東が林彪事件後、急速に『老け込んだ』との話を元高官から聞いたという」
連載タイトルにある「林彪」は「りんぴょう」とルビ(ふり仮名)がふってある。しかし、記事中の「葉永烈」は「イエヨンリエ」である。タイトルと同じ方式なら「ようえいれつ」だろう。正しくは「葉」は人名の場合は「しょう」であるが(書渉切)、まあ慣用読みの「よう」でいいだろう。
ともあれ、支那人名の読み方に不整合が生じている。支那人名を支那語発音で書かないのは差別だという異常なイデオロギーが言論界・教育界を支配した結果だ。