ロシアへの警戒感が高まる The New York Times/AFLO
米国のドナルド・トランプ大統領の舵取りに、世界中の注目が集まっている。その最たるものが、対露外交の方向性だろう。
オバマ前大統領は、米大統領選中の「サイバー攻撃」を巡って、露外交官に厳しい処分を科した。さて、新大統領は、前任者の大きな置き土産をどう片付けるか。作家・元外務省主任分析官の佐藤優氏が解説する。
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米国のオバマ大統領(当時)は、ロシアがサイバー攻撃を仕掛けて米大統領選挙に介入したとの理由で、去年12月29日、米駐在のロシア外交官35人に72時間以内の国外退去を求めた。
ロシア、米国、中国、イスラエルなどのインテリジェンス大国がサイバー攻撃を行っていることは公然の秘密だ。むしろ、米国の民主党が、サイバー攻撃に脆弱なシステムを使っていたことが問題だというのが、インテリジェンス業界での相場観だ。
しかし、オバマ氏の基準は業界基準と異なるようだ。GRUやFSBは、米国の民主党のみならず共和党のサイトに対してもサイバー攻撃を行って機微に触れる情報を入手したが、共和党に関する情報は秘匿し、民主党に関する情報のみをリークしたことが、汚いと考えているようだ。
ロシアのサイバー攻撃がなかったならば、民主党のクリントン候補が大統領に当選していたということを強く滲ませる主張だ。見方を変えるならば、米国の民主主義は、ロシアのサイバー攻撃によって基盤を覆されるほど脆弱であるということになる。
この種の問題を外交の場に持ちだしても不毛だ。なぜなら、ロシアがサイバー攻撃を行っていないならば「NO」と答える。ロシアがサイバー攻撃を行っていたとしても頬被りをして「NO」と答えるに決まっているからだ。