◆「日本に尋ねよ」
冒頭からなぜラーメン二郎なのか。日本経済の不調が唱えられて久しいが、実は日本ほど豊かな国はないと言いたいからだ。 株価は上がったものの、国民の多くはその実感がないし、デフレを完全に克服できたわけでもなく、GDP成長もおぼつかないのが今の日本経済だ。ところが、食にこれだけの「遊び」がある国が他にあるだろうか。日本におけるラーメンの多様性は和食文化の多様性であり、日本が本当は大変豊かである証拠と言える。
このことは世界も気付き始めている。
米外交専門誌の『フォーリン・アフェアーズ』は2016年3/4月号で世界経済の長期停滞を説く中で、ザチャリー・カラベルという投資家による「停滞を愛せよ~成長は万能ならず。日本に尋ねよ」と題された論文を掲載した。
日本はデフレと低需要という経済状況にあっても平均寿命は長く、犯罪率は低い。医療と教育は優れていて、格差は広がっていても人々の生活レベルは悪化していない、というのである。
英国の高級誌『エコノミスト』も2016年夏号で日本経済を特集し、「今のアベノミクスへの評価は低すぎる」などと指摘している。
リーマン・ショックが起きた2008年以降、「あの国がうらやましい」という存在はどこにも見当たらず、世界はすっかり停滞ムードにある。そんななか世界を見渡してみたら、「日本は不思議に安定している。実は良いんじゃない?」というのが世界の見方になりつつある。欧米各国では実現が難しい、「緩和的な金融政策」や「拡張的な財政政策」を組み合わせて行っている日本は、世界の先頭に立つ存在なのである。
●よしざき・たつひこ/1960年富山県生まれ。一橋大学社会学部卒業後、日商岩井(現・双日)に入社。ブルッキングス研究所客員研究員、経済同友会代表幹事秘書などを経て現職。著書に『アメリカの論理』『1985年』(いずれも新潮新書)などがある。
※SAPIO2017年3月号