演歌はCDよりカセットの売れる店が多い(演歌歌手・水田竜子)
「うちでも長年、演歌のテープばかり製造してきました」
そう話すのは、東京電化で音楽カセットテープ製造責任者を務める江幡昭氏。昔は大手レコード会社が関連工場で音楽カセットテープを製造していたが、CDの普及によって生産量が激減すると工場を閉鎖。今はレコード会社が外部に生産委託しており、東京電化は国内シェア7割を占める最大手だ。
「ここ2、3年は、月に20~30タイトルのうちJ-POPも2、3タイトル生産するようになりました。80年代の最盛期には月100万本ぐらい生産していましたが、今は月5万本程度。今後生産が伸びるといいのですが」(江幡氏)
アーティストは全体のコンセプトに従ってアルバムの曲順を決める。デジタルだと飛ばされたり、シャッフルされたりするが、テープならば順番に聴いてもらえる。音楽とじっくり向き合ってもらえるのだ。それを期待してテープで新譜を出すアーティストが増えているのだという。特に予算のないインディーズにとっては製造コストの安さも魅力だ。
日本ではまだ“静かなブーム”だが、waltzの角田氏によれば、「西海岸のインディーズでは、カセットテープにデジタルのダウンロードコードを付けて新譜をリリースするケースが急増するなど、アメリカではカセットテープ音楽はかなりのブームになっている」という。
実際、全米で唯一音楽カセットテープの製造を行なっているナショナル・オーディオ・カンパニーは、2015年に史上最高の売り上げを記録したほどだ。
日本でも本格的なブームになるかどうかの鍵は「ハードの普及にかかっていると思います」と角田氏。現状では、テープで聴きたくてもカセットデッキを持っていない人が多く、メーカーもほとんど製造を中止してしまった。そのためwaltzではラジカセやカセットの携帯音楽プレーヤーも販売しており、月に50台ほど売れる。
車用のカセットデッキは、3年近く前、オーディオ関連用品メーカーのビートソニックが製造・販売を再開した。スマホやUSBメモリやSDカードも接続できるが、ウリは〈懐かしの音源が車で楽しめる!〉というもので、価格は約1万7000円。
「カー用品店に卸し、年間2000~3000台売れています。ご年配のユーザーが多いようで、『これが出るのをずっと待っていた』というお礼の電話をいただいたこともあります」(同社技術部藤岡潤二課長)
ダウンロードやストリーミングに移行すれば、音楽はモノとしての“形”を失ってしまう。そんな時代だからこそ、確かな形あるモノとして音楽を楽しむことのできるカセットテープは魅力的なのかもしれない。
撮影■佐藤敏和
※週刊ポスト2017年2月24日号