昨年11月、観光や待ち合わせスポットとして有名な東京・渋谷駅前のハチ公広場から喫煙所が撤去されて物議を醸したことは当サイトでも報じた通り。「いつもの吸い場所」を失った愛煙家の嘆きや、“跡地”でポイ捨てする人たちのマナーの悪さを指摘する声が相次いだ。
喫煙所を管理してきた渋谷区は、撤去の理由について「人が多く集まる場所だけに、非喫煙者の受動喫煙被害が甚大だった」と説明し、観光名所としての景観を守る目的があったことも付け加えた。結局、渋谷区はJRハチ公口から100メートルほど離れた西口広場にあるモヤイ像脇に、パーテーションで区切った喫煙所を整備し、そこに「集約」する形で理解を求めてきた。
あれから3か月以上が経ち、渋谷駅の状況はどうなっているのか──。モヤイ像の喫煙所に行ってみると、「お願い」と大きく書かれたこんな張り紙が掲示されていた。
〈喫煙の際、歩道へ広がって吸うと、通行妨害となります。状況が改善されない場合、利用を停止します〉
ハチ公口にいる喫煙者が一様にモヤイ像に集まってしまうため、すぐに喫煙スペースのキャパシティを超えてしまうのだ。もちろん、そうした事態になることは渋谷区も想定していた。屋外で賄いきれない喫煙ニーズは、再開発が進む大規模ビル内の喫煙所に分散させたい狙いがある。それまでの移行期間は、繰り返しマナー啓蒙を図るしか手がないのだという。
駅前エリアの喫煙を考えるうえで、渋谷以外にも喫煙所が撤去されたケースはある。JR中央線の駅別乗降客数で新宿、東京に次いで3番目に多い「立川駅」(東京都立川市)もそうだ。
立川は多摩地区の主要都市として目覚ましい発展を遂げ、中央線のほか南武線や青梅線、多摩モノレールも通る。駅周辺にはルミネ、伊勢丹、高島屋といった百貨店、大型家電量販店などが建ち並び、常に人で賑わっていることから、“リトル新宿”と呼ぶ人もいる。また、立川駅から徒歩10分も歩けば、東京ドーム40倍の広大な敷地を有する国営の昭和記念公園があるため、休日ともなると地元住民のみならず来街者数も膨れ上がる。
そんな立川駅前から指定の喫煙場所が廃止されたのは、昨年7月11日。
もともと立川市は2008年6月に施行した「立川市安全で快適な生活環境を確保するための喫煙制限条例」に則り、市内全域での歩きたばこやポイ捨てを禁じてきた。また、立川駅周辺を中心とした半径250メートル以内の区域と、西国立駅を中心とした半径150メートル以内では、立ち止まっての路上喫煙も禁止した。
そこで、2008年より駅前の南北2か所ずつに指定喫煙場所を設けたわけだ。立川市環境下水道部環境対策課の五十嵐智樹氏がいう。
「条例ができる前は、駅周辺での歩きたばこ喫煙率が(歩行者全体に対して)2.6%程度だったものが、喫煙所の整備と啓発活動によって0.15%前後にまで下がり、ポイ捨てもかなり減りました」
まさに、喫煙者と非喫煙者が共存できる理想的な駅前環境を整えた、はずだった。ところが、渋谷区と同じく行政サイドの想定を超える人が喫煙スペースに押し寄せ、逆に受動喫煙の被害を訴えるクレームが多く市に寄せられたという。