「1か所の喫煙所でピーク時には30~40人が同時にたばこを吸うため、その大量の煙がビル風によって近くのバスロータリーや、場合によっては駅のコンコースの中にまで入り込んでいました。来街者の方から『立川は駅を降りたらすぐにたばこの臭いがしたのでイヤな思いをした』といった苦情もいただくほどでした。
確かに駅のあちこちで見られた歩きたばこや受動喫煙の対策は、喫煙所を設置することで一定の効果がありましたが、たばこを吸わない方々の許容する喫煙者数と煙の量を遥かに超えてしまったのです」(前出・五十嵐氏)
そこで、立川市の清水庄平市長が、〈喫煙所からたき火のような煙がもうもうと上がるのは、この街にふさわしくない〉と、街のイメージアップの意味も込めて喫煙場所の閉鎖を決めた──というのが一連の経緯である。
しかし、一度は設置した喫煙所を市長のトップダウンで一斉に撤去してしまうのは、あまりにも乱暴な策ではなかったか。渋谷でさえ代替地となるモヤイ像の喫煙所は残している。
五十嵐氏は、「もちろん、替わりとなるような場所も探しましたが、適当な場所がありませんでした」と説明し、決して喫煙者を“排除”しようとしたわけではないと繰り返したが、結果的には喫煙所に集まっていた人たちの行き場を失わせることになった。
毎日片道50分かけ、満員電車に揺られて都内の会社に通っている立川市在住の40代スモーカーが嘆く。
「慌ただしい通勤の行き帰りに駅前の喫煙所で一服して気分を落ち着かせるのが日課だったので、吸える場所がなくなって正直ストレスは溜まっています。
喫煙スペースのある喫茶店や百貨店に行けばいいのでしょうが、朝から喫茶店に入ってコーヒーを飲んでいる時間的な余裕はありませんし、帰りも店が開いている時間に帰ってこられるとは限りません。そもそも寄り道をしてまでたばこを吸うぐらいだったら、家まで我慢したほうがいいですしね」
市では、前述した駅周辺から半径250メートルの「特定地区」を外れれば、路上でも周囲に配慮しながら立ち止まって喫煙することを認めている。だが、特定地区の範囲を記した地図は駅周辺に多数掲示されてはいるものの、いかんせん、東西南北どこから先が喫煙可能なのかが分かりにくい。地元に土地勘のない来街者はなおさらだ。
「路上喫煙禁止地区である旨の路面表示シートを設置し、その境界線はシートの向きを変えるなど工夫している」(五十嵐氏)とはいえ、そこまで足元表示に気を留める人は少ない。
しかし、市区町内をすべて路上禁煙、あるいはエリアを細かく区切って禁煙にしているような自治体に比べれば、まだ立川の方針は理解しやすい。つまり、駅周辺の人口密度が高いエリアは受動喫煙の恐れが増すので路上禁煙にし、それ以外の場所であればマナーを守って自由に喫煙できる。その点では喫煙者の権利も尊重されている。