国際情報

中国・習近平政権 カンボジアのフン・セン政権と蜜月

カンボジア投資は中国が突出している

 中国がカンボジアに国家予算の5%もの「爆援助」を行っている。その結果、カンボジア市場では中国企業の一人勝ちになっており、もはや日本企業が付け入る隙は少なくなっている。ジャーナリストの安田峰俊氏が現地からレポートする。

 * * *
 近年、習近平政権は中国企業の海外進出政策(「走出去」)を従来以上に推進し、また地政学的観点から東南アジア各国の政治・経済的な取り込みを図っている。なかでもカンボジアは、中国の働きかけが最も成功した国だ。

 現地で30年以上も権力を握るフン・セン首相の親中ぶりは有名だ。彼は2014年11月、習近平の肝煎りで作られた中国政府の国策ファンド・シルクロード基金から毎年5億~7億ドル(約600億~800億円)の援助を受けることでも合意した。

「大規模インフラ整備を名目に中国と巨額の借款契約を結ぶフン・センは、国家の借金を自分の一族の企業の懐に流し込んでいる。少し政府に関係がある人間なら誰でも知っている話だ」

 カンボジア政府関係者のK氏は語る。

「中国はかつて、ポル・ポトが国民を数百万人も虐殺した時でさえカンボジアの内政に口出ししなかった『伝統的な友好国』だ。現在でも欧米や日本と違い、腐敗や人権問題を非難せずにカネを貸す。儲けたい政治家には好都合なのだ」

 両国の蜜月関係は外交姿勢にも反映されている。昨年6月、中国が南シナ海島嶼領有権をめぐるハーグの国際仲裁裁判で敗訴した際、カンボジアは判決が出る前から率先して中国支持を表明した。

 中国はその「忠誠」へのお礼か、翌7月に李克強首相が新たに6億ドル(約700億円)の無償援助を約束。対してカンボジアは同月末のASEAN外相会議でも中国寄りに振る舞い、南シナ海問題で中国を非難する内容を共同声明から取り下げさせた。

「中国はカネの払い方もコネの広さも桁違い。南シナ海問題と同様、今後に日中両国が尖閣問題で衝突した場合、カンボジアが中国を支持する可能性はかなり高いと感じる」

 日本の政府外郭団体現地事務所のある幹部は話す。

 現地では年配層を中心に、往年のUNTAC(国連カンボジア暫定統治機構)の活動や日本の長年の援助(2014年度まで総額約4348億円)に感謝する声が根強い。日本の援助は医療分野や上水道整備・人材の育成など庶民生活と密着したものが多く、それも人気の理由だ。

 だが、こうして築き上げた民衆との信頼関係も、現地政治の腐敗すら利用して自国への取り込みを図る中国外交を前に「人道の敗北」を喫しつつある──。

 東南アジアの小国の変貌からも、悩ましき赤い隣国の影が見えてくる。

※SAPIO2017年3月号

関連キーワード

関連記事

トピックス

大谷翔平(左/時事通信フォト)が伊藤園の「お〜いお茶」とグローバル契約を締結したと発表(右/伊藤園の公式サイトより)
《大谷翔平がスポンサー契約》「お〜いお茶」の段ボールが水原一平容疑者の自宅前にあった理由「水原は“大谷ブランド”を日常的に利用していた」
NEWSポストセブン
林田理沙アナ。離婚していたことがわかった(NHK公式HPより)
離婚のNHK林田理沙アナ(34) バッサリショートの“断髪”で見せた「再出発」への決意
NEWSポストセブン
フジ生田竜聖アナ(HPより)、元妻・秋元優里元アナ
《再婚のフジ生田竜聖アナ》前妻・秋元優里元アナとの「現在の関係」 竹林報道の同局社員とニアミスの緊迫
NEWSポストセブン
かつて問題になったジュキヤのYouTube(同氏チャンネルより。現在は削除)
《チャンネル全削除》登録者250万人のYouTuber・ジュキヤ、女児へのわいせつ表現など「性暴力をコンテンツ化」にGoogle日本法人が行なっていた「事前警告」
NEWSポストセブン
水卜麻美アナ
日テレ・水卜麻美アナ、ごぼう抜きの超スピード出世でも防げないフリー転身 年収2億円超えは確実、俳優夫とのすれ違いを回避できるメリットも
NEWSポストセブン
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
遺体に現金を引き出させようとして死体冒涜の罪で親類の女性が起訴された
「ペンをしっかり握って!」遺体に現金を引き出させようとして死体冒涜……親戚の女がブラジルメディアインタビューに「私はモンスターではない」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン