◆二国間協議は「飛んで火に入る夏の虫」
自動車貿易に限らず、これからトランプ政権が仕掛けてくる“交渉”に日本が真正面から挑もうとすると、必ず失敗するだろう。トランプ大統領は長くはもたない可能性が高いので、のらりくらりとかわす方針で対応すべきである。
日米首脳会談では、アメリカの日本防衛義務を定めた日米安全保障条約第5条が沖縄県の尖閣諸島に適用されることを確認するなど日米同盟の強化で一致するにとどまり、経済問題はすべて先送りされた。
が、訪米前に日本の新聞各紙は、アメリカでインフラ投資などによって4500億ドルの市場を創出し、70万人の雇用を生み出すという経済協力の政策パッケージ「日米成長雇用イニシアチブ」を日本政府が検討していると報じた。これこそトランプ大統領への「手土産」だったのである。
これはトランプ大統領の愛娘イヴァンカ氏の夫で上級顧問のジャレッド・クシュナー氏と官邸が裏で緊密に連絡を取り合い、トランプ大統領が納得するような経済協力や貿易見直しのリストを作成していたと聞いている。まさに“朝貢外交”である。今回これを出さなかったとしたら上出来、と言える。
安倍首相が訪米前に「あくまでTPP(環太平洋パートナーシップ)の意義を伝え、理解を求める」と言っていたのは建前で、端から二国間協議に前のめりだったのだ。しかし、これは「飛んで火に入る夏の虫」だ。アメリカとの二国間協議は絶対にやってはいけないことである。
なぜなら、日本は1970年代から1990年代初めにかけての日米貿易摩擦で、繊維、合板、鉄鋼、テレビ、自動車、農産物(コメ・牛肉・オレンジ)、半導体などの二国間協議で“全敗”したからだ。日本の政治家と官僚が前に出てアメリカと二国間協議をやったら勝ち目はないのである。にもかかわらず、なぜ日本政府は同じ轍を踏もうとしているのか? 政治家にも役人にも、かつての苦い歴史を覚えている人がいないからだ。
日米貿易摩擦の最後の半導体交渉が事実上終結したのは1991年だから、すでに25年以上が過ぎている。役人たちは四半世紀も前のことは覚えていない。安倍首相が政治家になったのは1993年なので、日米貿易摩擦の現場は全く知らない。そういう人たちがアメリカとの二国間協議に臨めば、負けるに決まっている。それは歴史とデータが如実に物語っているのだ。
※SAPIO2017年4月号