国内

燗酒を飲みオニギリを頬張りながら味わう山形「黒川能」

伝統の芸を受け継ぐ能役者は囃子方を含めて約160人

 国際情報誌SAPIOの人気連載『日本の芸能を旅する』最終回は能楽(山形・鶴岡)編。ノンフィクション作家・上原善広氏が山形県鶴岡市郊外、月山の麓にある黒川地区を訪ね、500年前の古い形を今も残す「黒川能」を受け継ぐ人々の話を聞いた。

 * * *
 初めて黒川能を見たときは衝撃だった。

 神社の社殿の中で上演されたのを見たのだが、上演が始まるとまず、どこからともなくお燗された酒が何度も回ってくるのだ。

 不思議に思って一杯、二杯といただいたのだが、そのうちオニギリが配られてきた。上演中なので躊躇していると、みな観劇しながらオニギリを頬張りだしたので、客に対する接待なのだと気が付いた。東京などでお行儀良く舞台を見ることに慣れていたので、これにはびっくりした。隅では煙草を吸っている老人もいる。

 なんと大らかなのだろう。しかし、昔はどこでもこうして酒を飲み、握り飯を食べながら能を見ていたのだろうと思うと、タイムスリップしたような不思議な感動があった。上演されている能も、中央(東京)に比べてかなり異様だ。まずひどく訛っている。

 例えば「富士の御狩りに」というセリフは「フズのミカリに」となっている。囃子方(はやしかた)の掛け声も、中央だと「イヤー」「オウッ」など気合いが入った鋭いものだが、黒川能は「アイヤー、ハーハー」と気の抜けたゆるいテンポが延々と続き、合間にポンポンと鼓を叩く。中央ではカーンッと高く鳴らされる大鼓も、「コーンッ」と軽い。万事がゆるく、庶民がリラックスして聞けるようになっている。

 演者は村の人々で素人なのだが、幼い頃より仕込まれているのでその芸は確かなものだ。しかしどこかのんびりしていて、昔の能もこのようなものであったのだろうと、再び感動させられる。

関連記事

トピックス

水卜麻美アナ
日テレ・水卜麻美アナ、ごぼう抜きの超スピード出世でも防げないフリー転身 年収2億円超えは確実、俳優夫とのすれ違いを回避できるメリットも
NEWSポストセブン
かつて問題になったジュキヤのYouTube(同氏チャンネルより。現在は削除)
《チャンネル全削除》登録者250万人のYouTuber・ジュキヤ、女児へのわいせつ表現など「性暴力をコンテンツ化」にGoogle日本法人が行なっていた「事前警告」
NEWSポストセブン
撮影現場で木村拓哉が声を上げた
木村拓哉、ドラマ撮影現場での緊迫事態 行ったり来たりしてスマホで撮影する若者集団に「どうかやめてほしい」と厳しく注意
女性セブン
5月13日、公職選挙法違反の疑いで家宅捜索を受けた黒川邦彦代表(45)と根本良輔幹事長(29)
《つばさの党にガサ入れ》「捕まらないでしょ」黒川敦彦代表らが CIA音頭に続き5股不倫ヤジ…活動家の「逮捕への覚悟」
NEWSポストセブン
5月場所
波乱の5月場所初日、向正面に「溜席の着物美人」の姿が! 本人が語った溜席の観戦マナー「正座で背筋を伸ばして見てもらいたい」
NEWSポストセブン
氷川きよしの白系私服姿
【全文公開】氷川きよし、“独立金3億円”の再出発「60才になってズンドコは歌いたくない」事務所と考え方にズレ 直撃には「話さないように言われてるの」
女性セブン
田中みな実、寝る前のスマホ断ちで「顔のエラの張り出しがなくなった」 睡眠の質が高まり歯ぎしりが軽減された可能性
田中みな実、寝る前のスマホ断ちで「顔のエラの張り出しがなくなった」 睡眠の質が高まり歯ぎしりが軽減された可能性
女性セブン
AKB48の元メンバー・篠田麻里子(ドラマ公式Xより)
【完全復帰へ一直線】不倫妻役の体当たり演技で話題の篠田麻里子 ベージュニットで登場した渋谷の夜
NEWSポストセブン
”うめつば”の愛称で親しまれた梅田直樹さん(41)と益若つばささん(38)
《益若つばさの元夫・梅田直樹の今》恋人とは「お別れしました」本人が語った新生活と「元妻との関係」
NEWSポストセブン
被害者の平澤俊乃さん、和久井学容疑者
《新宿タワマン刺殺》「シャンパン連発」上野のキャバクラで働いた被害女性、殺害の1か月前にSNSで意味深発言「今まで男もお金も私を幸せにしなかった」
NEWSポストセブン
広末涼子と鳥羽シェフ
【幸せオーラ満開の姿】広末涼子、交際は順調 鳥羽周作シェフの誕生日に子供たちと庶民派中華でパーティー
女性セブン
NHK次期エースの林田アナ。離婚していたことがわかった
《NHK林田アナの離婚真相》「1泊2980円のネカフェに寝泊まり」元旦那のあだ名は「社長」理想とはかけ離れた夫婦生活「同僚の言葉に涙」
NEWSポストセブン