結局、仁美さんは夢をあきらめ、借金を返すために今も風俗で働いている。登録料、撮影料、レッスン料など様々な名目で仁美さんから多額の金銭を受け取ったYには、もう連絡をとっていないし、向こうから連絡が来ることもない。芸能人になりたいという夢も、すでに過去のものだ。
後日、仁美さんから筆者の元に電話がかかってきた。なんと、仁美さんの夢を利用したYが、新雑誌を作ると吹聴し、モデルにならないかと新たに女性に声をかけているというのだ。仁美さんの声は怒りに震えていたが、力強かった。
「同じような被害者が出ないように、私が経験したことはなんでもお話しします。私への行為については諦めもつくが、若い女性たちがまたYの喰い物にされるようなことは、決して許しません」
モデルになりたい、タレントになりたいといった夢を見るのは悪くない。だが、夢見る他人の隙に入り込み、悪事を働こうとする者が必ずいる。彼らは人の夢を踏み台にし、けしかけ、家族や友人たちと疎遠になるように仕向ける。そして、いま求められていることは、自分の夢を叶えることにつながらないかもしれないと気づきながら従ってしまう。冷静だったら陥らない奇妙な判断をしてしまうのは、金も人間関係も吸い取れるだけ吸い尽くす、カルト的な手法によって精神的に閉じ込められた状態になるからだ。
被害者が一人でも減るように、悪質な手口の存在が少しでも広まり、身を守る手助けのひとつになればと思う。