「Yは私が不満をいうと“俺の彼女になればもっと雑誌に出せる”といってきたんです。ビックリしましたが、数日後には肉体関係を持ってしまいました…」
もし、関係を断ったら、少ない芸能人の仕事もなくなってしまうかもしれない。自分の仕事を増やしたい思いもあるにはあったが、やっとつかんだ憧れの仕事を失うかもしれない恐怖にも襲われ、ほかの選択肢はないように仁美さんは思ってしまった。
それからは、Yの要求は目に見えてエスカレートした。深夜に家に押しかけられ相手をするよう求められたり、金を無心してくることもあった。それでも、自身の夢を叶えてくれるのはYしかいない、そう思った仁美さんは要求に応えていった。そして、気づけばYにとって都合がよい、いいなりともいえる存在になっていた。
「肉体関係を持って以降、雑誌での扱いは格段に良くなりました。Yとも“彼氏と彼女”という良好な関係を続けられていると感じ、私の夢についてもよく相談に乗ってくれていました」
しかしやはりYは信頼に値する男ではなかった。すでに登録料と撮影料を払わせることに成功していたYは、今度は仁美さんに“レッスンの受講”を勧めてきた。
「いろいろあって、私が母親と疎遠になり、あまり連絡をとらなくなっていたことを何度も確認してきたと思うと、数十万円もするレッスンの受講を再度勧めてきたんです。雑誌の表紙を務めるには、ポージングなどの勉強が絶対に必要だと迫ってきて…」
業界では有名な先生の講座があるから、Yが窓口になって特別に受講できるというのだ。受講料は、講師の先生やレッスンを開講しているスクールではなく、Yに支払うという条件だった。
当時のことを、仁美さんはすでに”並みの読者モデル”になれたと勘違いしていたと振り返った。Yは肉体関係を持っているが故の男女間の微妙な心情の変化を巧みに利用し“俺の彼女なんだから、最高のレッスンを受けて一流のモデルになれ”と熱心にすすめてきた。
「150万円近くを借金してYに支払いましたが、レッスンがあったのは最初の数回だけで中身のないものでした。仕事が増えるわけでもないのにプライベートでは相変わらず肉体関係が続いており、さらに、財布を落としたとか、新規事業で損失が出て会社が危ないなど言われる度に、数万円から数十万をYに渡しました」
結局、レッスン代名目の金も含め、Yに500万近くを支払ってしまった仁美さん。最初の150万はどうにか返済できたが、残りの返済のためには仕事を変えざるをえず、風俗で働くしか道はなかった。仁美さんが風俗で働き出してからすぐ、Yとの距離は急に広がった。仁美さんに「騙されているという認識はなかったのか」と尋ねた。
「肉体関係を持った直後くらいから、たぶん騙されているなという気持ちはありました。でも、私には夢があって、実現のためにはYについていくしかないという気持ちも心の中にあった。逆に言えば、叶わぬ夢を持った私を認めてくれるのが、Yしかいなかったんです。芸能人が性接待を行うのはいくらか常識で、風俗で働くこともあるという間違った認識もあったでしょう。今考えれば馬鹿馬鹿しい話ですが、若くて現実を知らなかった私もいけなかったのだと思います」
そもそも、芸能人にとって、性接待や風俗で働くのはよくあること。なぜ、仁美さんがそんな誤った思い込みをするようになったのか。ひょっとしたら、元アイドルやタレントがAVデビューしたと告げるニュースの多さが、そんな勘違いを生む土壌を生んだのではないか。もしそうなのだとしたら、お茶の間で知られた人がポルノデビューしたと子どもの目にも入ってしまう現在のニュースの報じ方は、問題があると言わざるを得ない。