午後1時、早朝の飛行機で東京から着いた美子さん夫妻と息子さんが、元の檀那寺のお坊さんと一緒に到着した。妹さん夫婦も合流した。

「昔は、みんな家の庭に一人ひとりのお墓を建てたんですよ。それが満杯になって、こうして山に建てるようになった。この辺りでは家墓になったのは戦後ですからね」

 久しぶりに訪れた美子さんたちも、私同様、この変わり果てた光景に驚きを隠せないでいたのがわかったのだろう。お坊さんが、そう教えてくれる。さて、墓掃除が済み、抜魂法要が始まった。お坊さんがお経を唱え、全員が合掌する。お盆に載せた香炉が回され、順に焼香する。

 それは、以前に取材した川崎の霊園での墓じまいとほぼ同様だったが、1970年代以降に建てられた墓石が整然と並ぶ霊園と、江戸時代からの無縁墓が林立するこの墓地とでは、重みが違う。私には、お坊さんの唱えるお経が、数々の無縁墓にも届いているように思えてならなかった。

 ここは、古い時代の死者たちの共同体に寄り添いながら土地の人たちが暮らした集落の墓地である。この日、ここから岡田家が去りゆく。「昭和」に建立した他家のお墓もやがて去りゆき、墓参する人が完全にいなくなるときも、そう遠くはないだろう。

 他人の私ですらそんな思いが去来するのだから、岡田家の人々の胸の内を思うと複雑だった。

 寒い日だった。お経は8分で終了し、石材業者がカロート(遺骨を入れた場所)を開ける。4つの骨壷が取り出され、抜魂法要は終了し、お坊さんも岡田家の人々も去った。

 私は、しばらく墓地に残って、石材業者が墓石を解体し、クレーンで吊り上げていく作業を見ていた。「こういった依頼は多いんでしょうね」と業者に聞くと、「そんなに多くないです。今日の岡田家のようにきっちりと抜魂法要をするかたは一部。知らん顔して、先祖をそのまま置いといて、次の人が亡くなったからと新しいお墓を買う人も多いですから」と無念な状況を教えてくれたことも忘れられない。

 本稿を書くにあたって、昨日、美子さんに電話した。

「一昨日、雨でしたが、新宿に行った帰りに、お花を持ってお参りしたばかり。主人も散歩がてらよく行っています。2週間もお参りが空いたことないんじゃないかな。『お義母さん、どう? 新しいお家の住み心地は。見える景色は変わったかもしれないけど、お義父さんたちと一緒に眺める代々木もいいでしょ』な~んて、話しかけてますよ」

 改葬して3か月。岡田家が選んだ「仏壇型の納骨堂」は、滑り出し絶好調のようだ。

※女性セブン2017年4月27日号

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