インターネットの普及により、ミュージシャンが動画サイトに動画を投稿することは今や珍しくない。ただ、演奏者がステージ上から観客を撮影し、その動画をアップした場合、観客は削除を求めることができるのか? 弁護士の竹下正己氏が回答する。
【相談】
ライブに行った際、あるピアノマンがスマホを客席にかざし、撮影したのです。後日、そのピアノマンのHPに私が映り込んだライブの模様が動画としてアップされており、削除を求めていますが、聞き入れてもらえません。これは肖像権の侵害だと思いますし、どうすれば削除してもらえるでしょうか。
【回答】
人はみだりに自己の容貌等を撮影され、公表されない人格的権利(肖像権)を有しています。正当な理由なく容貌を撮影し、その写真を公表すると肖像権の侵害になり、侵害行為の差し止めや精神的苦痛に対する慰謝料の請求もされかねません。
肖像の撮影や公表が許されるのは、本人の承諾がある場合のほか、本人の社会的地位、撮影された活動内容、撮影場所、撮影目的、撮影態様、撮影の必要性等を総合して、被撮影者の人格的利益の侵害が社会生活上、受忍の限度を超えないと判断される場合です。
例えば、ニュースになるような大きなライブの場合、会場の様子を伝える情景の一要素として、観客の顔が一瞬大写しで放映されることは珍しくありません。主催者が撮影して、HP上に掲載されることもあります。
こうしたライブでは、撮影されていることがわかりますから、映像が利用されることも予想されることです。特定の観客に焦点を当てた映像でなければ、承諾があるといえますし、明示的な承諾がなくても、受忍限度内と解されるケースが大半です。