同店には「郷土の棚」という名物コーナーがある。そこには岩手県の歴史や風土、風俗に関する本が並んでいるとは限らない。記者が訪れた時にはなぜか教育関係の本が並んでいた。「岩手では2020年に向けて、学校改革をやることが話題になっている」(田口さん)からだという。

 このコーナーで爆発的に売れた本がある。『吾わが住み処じよここより外ほかになし』(岩見ヒサ著、萌文社)。田口さんはその本のPOPにこんな言葉を添えた。

〈岩手県に原発がない理由が本書を読むと分かります。一一八ページをご覧ください〉

 元開拓保健婦の生涯を書いた本だが、実は岩手県が原発を誘致するかどうかが県議会の議決までいった時に、真っ先に反対運動を始めたのが岩見さんだった。

「福島の原発事故が起こる10か月前に出された本でしたが、この本を原発の本として売る人はいなかったと思います。だけどこの本を読めば、なぜ岩手県に原発ができなかったのかがわかるんです」(田口さん)

 さわや書店は、全国的なベストセラーを生み出したことでも知られている。『思考の整理学』(外山滋比古著、ちくま文庫)は〈もっと若い時に読んでいれば…そう思わずにはいられませんでした〉というPOPがきっかけで、フェザン店で月に100冊売れるようになり、出版社がこのPOPを全国に広げたことで200万部の大ベストセラーになった。

「書店員がお客さまとコミュニケーションを取り、本をめぐる会話をして、お客さまとの関係を“耕して”いく。そうすることで信頼関係が深まり、提案を聞いてもらえるようになるんです」(田口さん)

 昨年には、同店がタイトルと著者名を隠し、読者へのメッセージだけをカバーに書いて『文庫X』として販売した試みが全国650超の書店に広がり、25万部を売り上げた。

『文庫X』の中身は『殺人犯はそこにいる』(清水潔著、新潮文庫)。12月に“正体”が発表された時には全国的に話題になったほどだ。

 1冊読み終えた読者に、「次の1冊との出会い」を提供する――それも書店の大切な役割の1つだと田口さんは言う。

『「本屋」は死なない』の著者で全国の書店を取材しているジャーナリスト・石橋毅史さんも、リアル書店で人が介在していることの大切さを語る。

「最近、俳句に興味を持っているのですが、ある小さな書店に入った時、俳句本コーナーに城山三郎の『部長の大晩年』という本が差してあった。中を見ると、永田耕衣という、大会社を定年まで勤めながら、俳人としても活躍した人物の話なんです。

 タイトルだけを見ても俳句の本だとはわからないので、その書店に行かなければぼくはその本に出会えなかったかもしれない。書店員が一冊一冊を丁寧に並べているからこそ、思いがけない本が目に留まることがある。それはネット書店にはない良さだと思います」

※女性セブン2017年4月27日号

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