ただ、そうした超高額所得者はごく一部に限定されている。旗本や御家人は、使用人の給料を払わないといけないので、実質的に大した暮らしはできない。一方で、職人の年収は、現代と同程度もある。一番驚いたのは、農民だ。現代よりはるかに多くの年収を稼いでいる。時代劇の「百姓一揆」のイメージを引きずってきた身としては、歴史観の崩壊だった。
本書を読んで強く感じたのは、確かに江戸時代は、一部に高額所得者が存在するものの、大部分の庶民は、質素だが、十分幸福な暮らしをしていたということだ。労働がストレートに評価されて収入に結びついており、いまのようにカネを右から左に動かすだけで、巨万の富を得る富裕層がいない分、健全な社会だったのだろう。
ただ、それは私の感想で、江戸の社会をどう捉えるのかは、実際に本書を読んで、そこに示されたデータから、読者自身が判断して欲しい。
※週刊ポスト2017年5月5・12日号