東京・台東区の根岸で320年以上続く豆富料理「笹乃雪」。「80年ほど前、9代目の当主が、料理に“腐る”はふさわしくないと“富む” の字を用いるようになった」と、11代目当主の奥村喜一郎氏。初代の当主は、宮様(111代後西天皇の第6皇子・公弁法親王)のお供をして京から江戸に移り、初めて「絹ごし豆富」を作った。今も当時の製法を引き継ぎ、井戸水と天然にがりを使用する。
「笹乃雪」の店名は、「笹の上に積もりし雪の如き美しさよ」と宮様が賞したことに由来。「今後は2碗ずつ持ってくるように」と申しつけたという名物「あんかけ豆富」は、2碗セットで供される。
赤穂浪士も口にしたという豆富。一番人気の「朝顔御膳」(2800円)は、生盛膾(いけもりなます)の白酢あえ、あんかけ豆富(2碗)、胡麻豆富、絹揚げ、蒸し物、冷奴、豆富茶漬け、豆富アイスの8品。1階のテーブル席では中庭を眺めながら豆富料理を味わうことができ、店内には根岸ゆかりの文人墨客の貴重な書画が展示されている。
〈水無月や 根岸涼しき 篠の雪〉──入口の左手には正岡子規直筆の句碑が残る。子規も愛した「あんかけ豆富」を口に含むと、ひと足早い夏の香りとともに大豆の旨味が口いっぱいに広がる。
【笹乃雪】
住所:東京都台東区根岸2-15-10
営業時間:11時半~20時(LO)※予約可(個室は要予約)
休日:月曜(祝日の場合は営業し翌日休み)
撮影■岩本朗 取材・文■戸田梨恵
※週刊ポスト2017年6月23日号