一方で藤井聡太四段の場合は、多くの棋士が口を揃えて、とても新人とは思えない、完成度の高さを指摘している。トップクラスのコンピュータ将棋ソフトに、これまでの藤井の対局を解析させてみると、序盤からリードを奪って、差を広げてそのままゴール、という形勢評価の推移パターンが、実に多く見られた。
もちろん時には、苦戦に陥ることもある。しかし差を離されないようにうまく粘り、盤上最善の手を続け、相手が失着を指した瞬間に、あっという間に逆転をしてみせる。「羽生マジック」のような、目が眩むような意表の連続で相手を幻惑させる、というイメージはない。
トップクラスのプロ棋士も参加する詰将棋解答選手権を3連覇していることなどから、藤井が終盤力にも秀でていることは疑いようがない。ただ、最後に「マジック」を繰り出さなくとも勝ちきってしまうところに、藤井の強さと完成度が見て取れるのだ。
後の超一流棋士たちも、デビューしたての頃は、そうたいしたことがないと、先輩の棋士たちに公言されることはよくあった。しかし藤井の場合は、高く評価する声はあれど、「まだまだ弱い」などと評する声は、ほとんど聞かれない。何しろ、現在のトップクラスである羽生自身が既に、ほとんど完璧と、藤井を絶賛しているくらいだ。