「WDが強烈に反対しているのも当然です。なにしろSKハイニックスは2007年から2008年にかけて、東芝から半導体の微細化に関する技術を不正に取得したとして訴訟になった相手。しかも、不正に技術を持ち出したのは、WDが買収したサンディスクの元技術者ですからね。
この一件は330億円で和解が済んでいるとはいえ、因縁のある会社です。悪夢の再来とばかりに、技術の不正取得が行われないとも限りません」(前出・松崎氏)
東芝はいまのところWDの訴えを意にも介していない様子だが、WDの従業員にデータベース情報のアクセスを遮断していた東芝に対し、7月11日、米裁判所が情報遮断解除の暫定命令を下した。さらに、7月14日には前述の売却差し止め仮処分の審問が行われる予定で、東芝の思惑に反してメモリー事業の売却はそう簡単には決まりそうもない。
仮処分が出ると仲裁には1年以上かかるとの観測もあり、来年3月31日までに債務超過を解消できない恐れも。2期連続の債務超過なら自動的に上場廃止だ。
「上場廃止になれば東芝の信用力は低下し、資金調達が難しくなる。そして、事業解体も行き詰まり、会社更生法など法的整理の可能性が高くなる」(経済誌記者)という最悪のシナリオが待っている。
「東芝には15万人の社員と全国1万社を超える取引先があります。法的整理をすることで従業員の大量リストラ、取引先の連鎖倒産などが起きれば日本経済をも揺るがしかねません。まさに“Too big to fail(大きすぎて潰せない)”のリスクは無視できません。
ただ、東芝はそもそもグループ経営を維持する必要があるのかという見方もあります。異質な事業部がたくさんあって、セクショナリズムで横のつながりがまったくない。不正会計の根を探っていけば事業部間の確執もあったわけで、必要以上にグループが膨れ上がったことが東芝の闇を深くした要因ともいえます。
そういう点では、7月より残った事業部を順次、分社化して巨額の負債を抱える本体から切り離しているのは、サプライチェーンを守る意味でも苦肉の策といえます。仮に本体が法的整理の対象になっても事業会社が自立していれば、連鎖倒産の危険性は小さくなりますし、事業再建の計画も立てやすくなります」(松崎氏)
いずれにせよ、すでに多くの主力事業を切り売りして縮小一辺倒の中、稼げる事業がなくなれば「東芝ブランド」を敢えて存続させる意味もないだろう。