保育と介護は、現代の日本でもっとも求められているサービスであり、働く人も求められている。しかし、その労働の現場は過酷だ。仕事が厳しいというだけではない。仕事そのものは好きだという人が少なくないこれらの業種で働く人のうち、決して少なくない保育士や介護士たちが、もう一つの仕事として夜の世界でも働いている。ライターの森鷹久氏が、彼女たちの切羽詰まった仕事事情について追った。
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安倍政権が声高に唱え続ける「働き方改革」──世界有数の広告代理店・電通に勤務していた女性が、業務量のあまりの多さと、度重なるパワーハラスメントを苦にして自死したことが大きな話題になるなど、我が国において「働き方」の再考を議論しようという機運が高まっている。一方で、新卒採用の有効求人倍率はバブル時の水準に迫るとも劣らない勢いで人手不足にあえぐ企業も存在する中、なぜか上がらないのが「賃金」だ。
「政治家は景気が良くなっていると説明するけれど。実際に給料が上がったのは、国策の恩恵を充分に受けた大企業社員や幹部だけ。お客さんは増えましたが、おじさんばかりで若者は来ない。結局私たちの事なんてどうでもいいんでしょう。働き方より給料上げてよって……」
神奈川県横浜市の派遣型風俗店で働く友里子さん(22)は、都内の高校と短大を卒業後、保育士として千葉県内の市立保育園に勤務している。日中は午前7時までには登園し、遅い時は夜21頃まで帰宅できない事もある。運動会やバス旅行、父兄との交流行事で土日が潰れることも多く、プライベートな時間がほぼ取れない友里子さんだが、手取り月収は13万円ほど。時給換算すれば、実に500円台という、アルバイトの最低賃金にすら届かない額で、未来ある子供達の世話をし続けている。
保育士として勤務を始めてから一年が経った時、友里子さんは都内の実家を出て、千葉の勤務先に近い場所にアパートを借りた。ワンルーム四万五千円のアパートは、築40年という老朽物件だが、若い女性が一人暮らすには問題ない。しかし、残り八万円強の現金から携帯代金に交際費、食費や消耗品を支出すれば、手元に残るのは一万円にも満たない。平日はフルタイムで働き、遊びたい盛りの若い女性にとって、過酷とは言わないまでも、気の毒な現状であることは違いない。そんな友里子さんが選んだのは、風俗でのアルバイトだった。
「渋谷でスカウトされたのがきっかけで”デリヘル”で働くようになりました。もちろん抵抗はありましたが、最初は週に一回、午後10時から深夜2時までの四時間勤務し、慣れてくると週に2~3回入るようになり、月に12万円ほど、本職とあまり変わらないようなお給料をもらえるようになりました」
手取り月収が20万円を超えるようになると、生活に対する不安は消え、貯金もできるようにはなったが、寝不足が続き、生理不順を起こすなど、体は悲鳴をあげた。
「体が持たず、今は週に2度ほど夜の勤務をしています。本業の方は人手が足りず、残業をしない日はありません。保育士の仕事は楽しいんですが、あまりの給料が低さに不安から解放されることがありません。働けば働くほど給料がもらえる、そんなシステムにはならないんでしょうか」
都内のデイケア施設に勤める美冬さん(37)も、前述の保育士同様の悩みを抱える。
「朝8時から夕方5時までの勤務で、月収は手取り13万円ほど。ただ、離職者が相次ぎ休日出勤が増え、週6日勤務が当たり前になりました。それでも給与は増えるどころか、なぜか減りました」