政府は2015年、9年ぶりに介護報酬を2.27パーセント引き下げた。麻生太郎財務相(当時)と塩崎恭久厚労相(当時)は「介護施設利用者の負担が軽くなり、介護職員の賃上げも実施するが、事業者の収入は減る」と説明したが、あれから2年が経ち、事業者は減った分について、職員の給与を削るか、勤務日を増やすことで職員を減らしながら、これまで通りの収益維持を図っている。
「四十代の夫も非正規社員で、月収は二十万にも満たない。子供二人を高校、大学まで行かせたいとなると、私が空いた時間で効率良く稼ぐしかないと思いました。風俗です」
デイケア施設に勤務する6日間のうち3日間は、終業後の夜8時から深夜12時まで、派遣型エステ店で働く。本業が休みの日曜日には、午前中から夜まで勤務することもある。夜の仕事で16万円ほどになるから、本業と合わせて月収は30万円弱になる。
「激務なのに給与が低い……。特に保育士や介護士はこうした悩みを抱えている方が多いです。日本の将来を担う子供、これまでの日本を支えてきた人たちのお世話をするといった、きつくても、本当はやりがいのある仕事のはずなんです。私たちの世代は、好きで介護士になった方も多いのですが、給与の安さの前には、とても”希望が持てる仕事”とは言い難い」(美冬さん)
「働き方改革」「賃金アップ」と、政治家が叫べば叫ぶほど、友里子さんや美冬さんは、自身が置かれた現実とのギャップに打ちひしがられるしかない。
保育士や介護士の仕事を続けるために、風俗をやっている、などといった本末転倒な事態が起こっているように、筆者の目には映る。彼女たちの訴えはシンプルで、働き方を考える前に、仕事に見合った賃金を支払って欲しいということだ。結局、政治家は聞こえのいい言葉で国民を騙し、事業者は自分が痩せないよう、少しでも太ろうと搾取する。最後に残るのは、国民全員が最大不幸を甘受せざるを得ない絶望の国であることに、本当は誰もが気がついているにも関わらずだ。