──『思考の整理学』を読んだ感想はいかがですか。
千葉:学部生の頃か院生になったばかりの頃に初めて読み、その後も手に取ったことがありますが、当時は今ひとつ内容に実感が湧きませんでした。若い自分はシャープに、図式的に方法論を示してほしいのに、これは達人の大家が方法ならざる方法を書いた、和風というか東洋的というか、フワッとしたエッセーですから。しかし、今読むと言いたいことがわかるし、味わい深い本だと思います。
──そのように変わった理由は?
千葉:外山さんが示す方法論的核心のひとつは、常に能動的に思考し続けるのではなく、ときには思考を「放っておく」「寝かせておく」「忘れる」ことが大切だ、そうすると何かが発酵するように新しい考えやブレークスルーするアイデアが浮かぶ、ということです。
若いとその感覚がわからないし、「放っておく」のが怖いので、早く結論を出そうと焦るのですが、苦しみながら多くの文章を書くことを経験すると、実際に時間が解決することがあるんですね。
僕も、思考が意のままにならないこと、そして無意識の作用で思考が出来上がってくることのリアリティを、30代後半になって感じるようになりました。今はよく「考えを冷蔵庫に寝かせる」とか「考えをマリネする」という言い方をします。そうすると、翌日の朝、考えが出来上がっていたりする。
本の帯に〈“もっと若い時に読んでいれば……”そう思わずにはいられませんでした。〉と宣伝文句が書いてありますけれど、実践経験の乏しい若いときにはこの本はわからないと思いますよ。