──確かに食品のカロリー表示本などを見ても、自分の食べた物の重量比較が難しく、感覚で計算していることがよくあります。
山田:それは仕方ありません。そもそも同じサーロインの牛肉100gと重量が正確に判明したとして、そのカロリーは136kcal~498kcalまで幅があり得ると文科省の『七訂食品標準成分表』には記載されています。
また、食品メーカーの表示の指針でもある消費者庁の『食品表示法に基づく栄養成分表示のためのガイドライン』を見ると、例えば同じ鶏肉であっても若鶏と成鶏といった種や年齢、エサ、季節によってもまったくカロリーが違うことは明らかと記載されています。初ガツオと戻りガツオでも大きな差がありますよね。
さらに、食品メーカーが表示する際は、プラスマイナス20%までの誤差はOKとされています。つまり企業のレベルですら、プラスマイナス20%のブレが許容されているほど、正確なカロリー計算は難しいということなのです。一般市民が正確なカロリーを把握できたらすごいことです。
そのため、ご指摘のように、自分が今から食べようとしている食品の重量など分からないことがほとんどだと思います。合わせて考えれば、今食べているものが○○kcalかなんて実際には分かりっこない。ほとんど当てずっぽうのようなものなのです。
──そうなると、カロリー計算は何の意味もない。
山田:そうです。食べたもののカロリーを1品ずつ足してカロリーを計算していくのは不可能です。ただ、もし1週間の自分の食事パターンがある程度固定化されているのであれば、もともと食べる習慣のものをベースに、特定の食品だけを削るやり方でカロリー量を減らす形なら、カロリーの変化量を把握することは可能かもしれません。
──むやみに高カロリーの食べ物を控えると、大事な栄養素も失いかねません。
山田:まったくその通りです。CALERIEという試験では、カロリー制限をした人たちはこぞって骨密度を減らし、筋肉量も減らしてしまいました。そこで、私がかねてより推奨しているのが「緩やかな糖質制限」をする食事法、いわゆる「ロカボ(ローカーボハイドレート)」です。
よく糖質制限というと炭水化物を抜けばいいと思われがちですが、炭水化物には食物繊維も含まれていますので、主食の白米であれば1食でご飯茶わん半膳(約70g)に減らせば食べても構いません。
1食に摂取する糖質の合計量を20~40gにコントロールすれば、それ以外の制約は一切ありません。つまり、脂たっぷりの肉や魚も満腹になるまで食べてよいのです。むしろ、肉や魚に含まれる豊富なたんぱくや脂質をしっかり摂りなさいというのがロカボの食事法です。
──しかし、ガッツリと肉食をメインにしていたら、それこそカロリー過多で肥満につながりませんか。極端な肥満体型が多いアメリカ人のようになってしまわないかと。
山田:それは大きな誤解です。たんぱくと油はむしろ基礎代謝を高める方向に向かうので、仮に肉や魚でとんでもないカロリー摂取になったとしても、エネルギー消費が同時に上がってくれます。また、そもそもたんぱくや脂質は満腹感を作り出す物質を分泌させるので、とんでもないカロリー摂取ができません。
つまり、カロリー量を考えないとカロリー摂取過多になるのは、満腹感を作り出しにくい糖質を中心にして食べているときに限定された話だったのです。だからロカボではカロリー量を一切気にしなくていいのです。
確かにアメリカ人は肉をドーンと食べて肥満体型の人も多いですが、あれは肉よりも付け合わせのマッシュポテトなどをたくさん食べているから。じゃがいもやさつまいもといった芋類、野菜でもかぼちゃやトウモロコシなどは糖質が多いので、食べる量は注意しなければなりません。
もっとも、1970年代のアメリカ映画を観ていただくと分かりますが、当時のアメリカ人は太っていません。なのに、1977年に「アメリカ人は高脂肪な食生活をしているために、心臓病が多い」とするレポート(マクガバンレポート)が出され、国家政策として油の制限に入ります。しかし、その後1980年代から肥満症や糖尿病患者が爆発的に増えるという弊害を招きました。