新商品「バルミューダ ザ・レンジ」。食卓と食事を引き立てる”操作音”が楽しい
──スペインでようやく小さなパンにありつき、涙を流す場面が本に出てきます。今回の新商品を含め、社長の「食」への思いの根底には、海外放浪の経験があるのかなと感じました。
寺尾:それはあります。あのとき、食べるって凄いことだと体に刻み込まれました。だから、トーストが美味しくなったら、人生の“楽しい”や“素晴らしい”が、少しかもしれないけど、増えると考えました。バルミューダはそれをテクノロジーで実現できるのだから、やるだけだと。
◆面接では、「実績」より「第一印象」を重視する
──その後、ロックミュージシャンとして活動するなど、社長は様々な人生経験をされていますが、そういった経験は起業に必要だと思いますか?
寺尾:いえ、経験は起業してからたっぷりできるので、事前に必要ありません。私の場合はその前から経験が濃かったものの、ここ数年のたいへんさに比べたら……。かなり危ない時期がありましたからね。数年前の危機を乗り越えたのは、トースターのおかげでした。
──「商品だけが会社を次のステージに連れていってくれる」と、前編でお話されていました。
寺尾:会社ってバンドに似てると思うんです。バンドもメンバーが集まって曲をつくり、演奏しますよね。たとえばベーシストがいなかったら曲にならない、けれども、そもそも曲を出さなければバンドの意味がないんです。会社がバンドだとしたら、商品は曲です。要はヒット曲を出せ、という話です。面白いのは、優秀な作曲家でなくてもヒット曲を書くことはあるし、上手い歌い手でなくても、歌はヒットすること。アイディアが新鮮だとか、声が個性的とか、聞いたことがないサウンドだとかが人々の心に刺さるわけで、つまり、優秀なメンバーを集めたからヒット曲がでるわけではないんです。
──ということは、たとえば採用に関しては、優秀であるかよりも重要視するポイントがありますか?
寺尾:優秀かどうかより、会社との相性を見ますね。仲良くする必要はないのですが、スピード感が合うかとか、方向性が合うかを大事にします。たとえば冒険より安定が絶対に大事という価値観の人とは、私は共に仕事ができないと思います。また、実績か、第一印象か、どちらか選ぶなら、第一印象を重視しますね。目の力、元気がいいかどうかを見ます。